2025年問題にどう対応する?人手不足解消と技術継承を解決する
建設業の人手不足は慢性化しているため、「2025年問題」と言われても、今さらな印象を持つ経営者も多いようですが、建設業界の中での問題ではなく、あらゆる産業との間で人材の争奪戦が始まると考えると状況が変わってきます。これから訪れる人手不足はさらに深刻で、若手男性の確保にこだわりすぎると、人手不足倒産のリスクすらあります。人手不足解消の対策は、できるだけ多角的な視点で考える必要があります。
目次
-2025年問題、さらに深刻な人手不足に
(1)2025年問題とは
(2)建設業界の現状と予測
-人材確保の対策とそれぞれの課題
(1)デジタル化、仕事の流動化による生産性向上
(2)幅広い人材登用で人手を確保する
(3)高齢人材の能力を最大限に活用する
-働きやすい環境づくり、働き方の選択肢を増やす
-働きやすさは人材確保の原点、魅力ある職場をつくろう
2025年問題、さらに深刻な人手不足に
(1)2025年問題とは
はじめに、2025年問題についておさらいします。団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳以上になる2025年、人口の20%が後期高齢者である超高齢化社会に突入します。少子化が高齢社会に拍車をかけ、出生率が低下するほど高齢者の比率は加速していくため、現在の予測を上回る可能性もあります。
ご存じの通り、2025年問題の最大の課題は働き手の減少です。すべての産業で深刻な人手不足が発生していますので、設備業の皆さんも、すでに業種業界の垣根を越えた人材獲得競争に直面しているのではないでしょうか。そして、労働人口の減少は経済力の低下に直結し、さらに後期高齢者を支える医療・介護、年金などの社会保障の負担増が加わります。現在の社会制度や私たちの暮らしを維持するには、労働人口の減少を生産性に比例させない生産性の向上が求められます。
(2)建設業界の現状と予測
令和3年の国土交通省の資料によると、令和2年の建設業就業者数は492万人、ピーク時である平成9年と比較すると約28.1%減少しています。年齢分布では55歳以上 36%、29歳以下11.8%であり、全産業の平均との比較では55歳以上の比率が高く、29歳以下の比率は低く、全産業の中でも高齢化が進んでいることがわかります。下表で分かるように現場を担う技能者の減少がより顕著であり、将来の担い手不足と技術が承継されなくなる懸念が指摘されています。
就業者の推移 | 平成9年 | 令和2年 | 減少率 |
---|---|---|---|
建設業就業者 | 685万人 | 492万人 | ▲28.1% |
技術者 | 41万人 | 37万人 | ▲9.75% |
技能者 | 455万人 | 318万人 | ▲30.1% |
国は、中長期的な視点で担い手を育成・確保する施策として、平成26年の公共工事品確法と建設業法・入契法の改正、働き方改革関連法などにより、技能者の賃金上昇や働きやすさを高めて若手人材を呼び込む取り組みを進めています。しかし、これらの取り組みが、中小規模の建設事業者には負担と感じられている側面も否定できません。まさに鶏と卵どちらが先かという議論になりますが、このハードルを乗り越えないことには、若手人材が他業界に流れるのを座視することになりそうです。
<ここまでのポイント>
・働き手の減少を生産性に比例させない対策が必要。
・建設行政は賃金上昇や働きやすさ向上で若手人材を呼びこむ取り組みを行っている。
人材確保の対策とそれぞれの課題
設備業でも若手人材の採用難は深刻です。何とか採用できても短期間で辞めてしまい、なかなか定着しないという声も聞きます。必要な人手を確保できなくなって廃業や解散に至るケースも増えています。少子高齢化はこの先も進むと考えられ、人材確保と同時に少ない人数でより高い成果をだす取り組みが必要になります。
(1)デジタル化、仕事の流動化による生産性向上
国の政策は、デジタル化を進める方向で動いています。中小企業も避けることは難しいでしょう。デジタル化にはデータの一元化、業務の見える化、標準化などの効果があり、仕事の属人化が解消します。仕事が流動化すると業務分担が柔軟になり、現場代理人や見積担当など業務負荷が集中しやすい人の仕事をサポートしやすくなります。現場代理人や見積担当は、本当に知見が必要な業務だけに集中できて生産性が上がります。知見が必要な業務を若手人材にOJTがてら経験させることもできるでしょう。
(2)幅広い人材登用で人手を確保する
建設現場ではすでに多くの外国人労働者が働いていますが、主に言葉の壁で工事関係の資格取得が難しいと言われています。その一方で、建設業界では外国人男性以上に、女性人材の活用に消極的でした。ここ数年で消防、警察、自衛隊でも女性職員の割合を高めており、建設業でも女性の職人さんは少しずつ増えているようです。女性建設労働者の入職・定着促進させる就労環境の改善のための助成金もあります。
(3)高齢者人材の能力を最大限に活用する
2025年4月から企業規模を問わず、65歳定年、定年廃止、65歳までの継続雇用のいずれかが義務づけられます。経過措置期間である現在は、本人の希望があれば原則65歳まで雇用することが定められています。定年延長には、経験や技術をもつ人材を活かせるメリットがあります。雇用延長する際に給与体系を変更する企業もありますが、同一労働同一賃金が前提になりますので、同じ仕事をしてもらう場合は賃金を変えることはできません。また、加齢による体力低下に配慮し、高齢労働者向けに安全衛生を見直す必要があります。
<ここまでのポイント>
・デジタル化による仕事の流動化で生産性が向上する。
・幅広い人材活用が必要。女性人材活用を促進する助成金もある。
・雇用延長で経験や技術をもつ高齢者人材を活用する。
働きやすい環境づくり、働き方の選択肢を増やす
業種業界を問わず、20代から30代が求人のホットゾーンです。しかし、若手人材は採用よりもさらに定着させるのが難しいという声もあります。定年退職者の雇用延長、女性、外国人などのこれまでは採用ターゲットにならなかった人材の活用に力を入れる会社が増えています。施工部門は男性に絞って採用する会社が中心でしたが、少しずつ女性にも門戸が開かれています。
さて、「ユニバーサルデザイン」という概念はご存じでしょうか。年齢や性別、体格、障害の有無、国籍などに関係なく、すべての人の使いやすいように考えられたデザインをさします。この考え方を、働き方の選択肢や職場環境づくりに取り入れることをお奨めします。
たとえば、施工職として女性を受け入れるために補助機器の導入や機械化を行うと、男性社員の負担も軽くなります。負担が軽くなればそれだけ生産性向上が期待できます。また、育児や介護などの事情で就業条件に制約がある人でも働けるように、働き方の選択肢を増やせば、仕事と家庭を両立させやすくなります。
「こうじやさんⓇシリーズ」クラウド版はどこからでもアクセスでき、現場作業のスキマ時間や移動時間で事務処理を進めたり、自宅に戻ってからリモートワークすることもできます。
勤怠管理システム「Writeレス」は夜間作業や時間休(中抜け)の労務管理ができるので、就業時間や休暇取得のルールを柔軟にできます。これまで働くことを諦めていた人や副業人材を活用できる可能性がでてきます。いずれも社員が働きやすくなるだけでなく、労働時間を圧縮できるので、会社にとっても残業時間の上限規制・割増率アップへの対応となるメリットがあります。
参考までに「ユニバーサルデザインの7原則」を紹介します。もともとはデザインの概念ですが、制度設計や業務改善などにも取り入れられています。この7項目を満たしていれば、どんな人にとっても使いやすいので、業務改善や新しいサービスを始める際の考え方としても役に立つと思います。
■ ユニバーサルデザインの7原則
1、誰にでも公平に利用できること
2、使う上で自由度が高いこと
3、使い方が簡単ですぐわかること
4、必要な情報がすぐに理解できること
5、うっかりミスや危険につながらないデザインであること
6、無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できること
7、アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること
出典:ユニバーサルデザイン7原則(国立研究開発法人 建築研究所)
<ここまでのポイント>
・非力な女性が働ける現場は男性社員にとっても働きやすく、生産性がアップする。
・スケジュール管理、勤怠管理のデジタル化が働きやすい職場づくりに役立つ。
働きやすさは人材確保の原点、魅力ある職場をつくろう
あらゆる業界で、人手不足による廃業や倒産が増え続けています。年齢、性別、国籍に関係なく、人材の奪い合いが始まっているのですが、建設業の中には慢性的な人手不足に慣れてしまっているためか、他業種と比較すると少し危機感に欠ける傾向があるようです。
どの業種でも求めている若手人材については、待遇、職場環境などの雇用条件を同業種だけでなく、他業種とも比較検討されると考えなければなりません。その一方で、価値観の多様化の影響もあり、高収入よりも働きやすさを重視する人も増えています。
これからはフルタイム勤務に加えて、家庭生活や副業との両立、短時間勤務を望む人材をどう活用していくかが課題になります。働き手の希望に寄り添う柔軟な働き方の選択肢を用意することが求められます。就業形態に制約がある人にとって働きやすい職場環境づくりは、フルタイムで働く正社員の働きやすさにもつながります。働きやすい職場という魅力は、人材確保の原点でもあります。