公共工事は、発注者によって設定された予定価格を基準に入札が行われます。労務費を「標準歩掛×設計労務単価」で積算して、最低制限価格を下回らない金額で受注した場合でも、赤字になる可能性はあります。つまり、赤字の原因は必ずしも労務費にあるとは限らないのです。入札案件で発生する赤字の原因を理解したうえで、赤字工事を回避する入札対策について解説します。
目次
1. 入札後の赤字はなぜ起こる?公共工事入札のしくみ
(1) 公共工事の労務費は「標準歩掛×設計労務単価」で積算する
(2) 建設Gメンのチェックポイントは「著しく低い労務費」」と「実勢と乖離した予定価格」
(3) 予定価格の資材単価・数量見積の精度が赤字受注の原因に
2. 入札の「失敗」には2種類ある
(1) 2つの失敗:①落札できない、②採算割れでの落札
(2) 2つは原因も対策もまったく違う
3. 入札前の「実行原価の試算」と「参加可否の判断」で利益確保
(1) 予定価格で落札したとしても利益を出せるとは限らない
(2) 試算の結果で「参加を見送る」という判断もできる
(3) 低入札価格調査の説明資料にも
4. 実行予算・自社歩掛を活用して、試算の精度を上げる
(1) 入札対策における自社歩掛の役割は試算の精度アップ
(2) データの蓄積が次の入札の判断材料になる
まとめ|赤字の原因を正しく理解し、自社でできる備えを固める
1. 入札後の赤字はなぜ起こる?公共工事入札のしくみ
公共工事の予定価格は、発注者側のルールに沿って計算される仕組みになっています。この仕組みを踏まえたうえで、赤字受注がなぜ起こり得るのかを整理します。
(1) 公共工事の労務費は「標準歩掛×設計労務単価」で積算する
公共工事には事前公表の有無を問わず、発注者が設定する予定価格があります。公共工事の予定価格における労務費は、発注者が「標準歩掛×設計労務単価」で積算しています。
積算実務に携わる方であればご存じの通り、標準歩掛とは国交省が定める標準作業量の目安、設計労務単価は国土交通省と農林水産省の2省が公表する職種別の労務単価です。入札案件の積算では、自社の労務単価や自社歩掛は使用しません。これらを起点として、公共工事の入札のしくみを整理していきます。
出典:国土交通省「公共事業労務費調査・公共工事設計労務単価について」
(2) 建設Gメンのチェックポイントは「著しく低い労務費」と「実勢と乖離した予定価格」
2025年12月に全面施行された改正建設業法は、著しく低い労務費による見積りや原価割れ契約を明確に禁止しています。
この規制は、受注者側の見積りだけを対象にしたものではありません。同時期に改正された公共工事品質確保促進法(品確法)第6条では、発注者は「予定価格の作成をはじめとする発注関係事務を、公共工事の品質が確保されるよう適切に実施する責務を負う」と定められており、発注者が実勢とかけ離れた低い予定価格を組むことも、ダンピングに含まれます。国交省の「建設Gメン」も、改正建設業法の全面施行を受けて、発注者・受注者双方への監視体制を強化しています。
出典:国土交通省「公共工事の品質確保の促進に関する法律」
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(3)予定価格の資材単価・数量見積の精度が赤字受注の原因に
予定価格や最低制限価格は、受注者の適正な利益を確保しつつ、予算内で公共工事を発注するために考えられたしくみです。にもかかわらず、赤字が発生するのはなぜでしょうか。
発注者(自治体)が予定価格を積算する際、電線・配管材・空調機器といった主要資材の単価が実勢より安く設定されていたり、施工に必要な数量が実際より少なく見積もられていたりするケースがあります。仮に同じ建物の積算をしたとしても、自治体によって予定価格が異なることは十分にあり得ることです。実際、赤字工事が起きやすい自治体では、応札者がいなくなる不調不落も珍しくないといわれています。こうした予定価格と実勢との差分が、赤字工事の原因になり得ます。
こうした差分が生じる背景には急激な物価高騰があり、発注者側の運用が実態に追いついていないことや積算力の不足が原因として考えられます。
<ここまでのポイント>
・公共工事のの労務費は、積算基準における「標準歩掛×設計労務単価」で計算される。
・改正建設業法・建設Gメンがチェックしているのは、受発注者双方の著しく低い労務費や、実勢と乖離した価格。
・資材単価、数量見積りと実態との差分が赤字の実質的な原因になり得る。
2. 入札の「失敗」には2種類ある
入札案件には2種類の「失敗」があると考えられます。ここでは、2つの失敗について整理してみます。
(1) 2つの失敗:①落札できない、②採算割れでの落札
入札における失敗のひとつは、「落札できない」ことです。受注するために参加している以上、これは分かりやすい失敗といえます。
もうひとつは、赤字になる金額で落札してしまう「赤字受注の失敗」です。利益を出すことが難しい金額で受注すると、赤字を抱えたまま工事を進めなければなりません。入札では、受注しない方がよいケースもあるのです。
前者は「受注機会の損失」、後者は「利益の損失」です。後者は資金繰りの悪化を通じて、次の案件を受けられなくなる「受注機会の損失」にもつながりかねません。もっとも、実績づくりや資金繰りのために赤字を覚悟で受注する、という経営判断もあり得ます。いずれにしても、入札金額に含まれる利益状況を把握したうえで意思決定することが重要です。
(2) 2つは原因も対策もまったく違う
落札できない失敗と赤字受注の失敗、それぞれ原因も違えば、対策も異なります。
落札できない失敗を回避するには、入札金額を低く抑えることが対策になりますが、その結果、赤字受注の失敗のリスクが待っています。
着工後に状況の変化などで赤字が発生するケースはありますが、これは工事管理上の問題であり、そもそも赤字となる金額で受注するのとはまったく状況が異なります。落札金額の内容にもよりますが、技術力や企業努力をもってしても利益を出すことが難しい場合があります。
2つの失敗に共通する対策につながるのは、予定価格や自社の入札金額にどれだけの利益が含まれているのかを把握すること、すなわち精度の高い見積や工事原価管理です。
<ここまでのポイント>
・入札の失敗には「落札できない」と「採算割れでの落札」の2種類がある。
・2つの失敗に共通する対策は精度の高い見積や工事原価管理。
3. 入札前の「実行原価の試算」と「参加可否の判断」で利益確保
予定価格は発注者が設定するものであり、受注者側から動かせるものではありません。だからこそ利益を確保するために重要なのは、入札前の準備とそれに基づく判断です。
(1) 予定価格で落札したとしても利益を出せるとは限らない
予定価格は、受注者が適正な利益を確保できることを前提に積算されています。ただし、これはあくまで標準的な歩掛・単価にもとづく想定であり、実際に施工する自社の実行原価(数量・資材単価・労務費)と一致しているとは限りません。また、競争入札では、実際の入札金額は予定価格からある程度下がった水準になるのが通常です。
自社の実行原価が、自社の入札金額(=落札できた場合の受注額)を上回れば、受注後に赤字となります。実際の現場では、標準的な施工手順を前提とする予定価格の積算に対し、狭小地での作業や既設設備の撤去が伴うなど、標準歩掛どおりにいかない工程が含まれることもあり、この差分が実行原価を押し上げる要因になります。
(2) 試算の結果で「参加を見送る」という判断もできる
自社の単価や歩掛で試算し、予定価格を下回る金額では利益確保が難しいと判断される場合は、入札そのものを辞退することが「赤字受注の失敗」の対策になります。入札参加を見送る会社が増えると、結果的に応札者がいなくなる不調不落となり、予算の見直しが行われる場合があります。
なお、予定価格が事前公表されている案件では、この判断がよりシンプルになります。上限があらかじめ分かっているため、その金額でも自社の実行原価をまかなえないと分かれば、参加を辞退する判断をせざるを得ません。
自社の単価や歩掛で試算した見積や実行予算は、入札金額を決める際に、どこまで金額を下げられるかの判断材料にもなります。適切な形で判断を下すためには、精度の高い見積や工事原価管理ができる体制を整える必要があります。
(3) 低入札価格調査の説明資料にも
直接的な入札対策ではありませんが、低入札価格調査を受ける場合、価格根拠の説明資料として自社歩掛の根拠を提示すると、認められる可能性があります。民間工事の価格交渉の材料としても、自社の実績データを持っておくことには価値があるといえるでしょう。
<ここまでのポイント>
・自社の実行原価による試算で参加可否を判断すれば、赤字受注を回避できる
・自社歩掛の根拠は、低入札価格調査時の説明資料としても使える
4. 実行予算・自社歩掛を活用して、試算の精度を上げる
自社歩掛は入札金額の見積には使用できませんが、落札した案件で利益を確保するためには有効です。実行予算や自社歩掛の役割を正しく理解して活用しましょう。
(1) 入札対策における自社歩掛の役割は試算の精度アップ
前提として、自社歩掛と標準歩掛が完全に一致する会社を除いて、標準歩掛では、自社の施工条件や技術力に応じた試算は難しいです。標準歩掛はさまざまな規模や特性を持つ工事店のデータから割り出した数値であり、標準的な指標にはなっていますが、あなたの会社と一致する保証はありません。
それに対して、自社の施工実績から割り出した自社歩掛は、自社の実行原価を効率よく見積に反映できるツールです。その工事でどれだけの利益を得られるかが明確になり、どこまで金額を下げられるか、落札してよい案件かを的確に判断できるようになります。
(2) データの蓄積が次の入札の判断材料になる
自社歩掛は、実行予算や工事原価管理、労務データなど、自社の施工実績で蓄積したデータから作られ、蓄積と分析を続けることで精度が高まっていきます。施工条件の変化や技術力の向上で変化していくこともあります。自社歩掛の活用を続け、メンテンスしていくことが入札の方針を判断する材料になります。
関連記事:【設備業の積算】「自社歩掛」とは何か?標準歩掛との違い、始め方
関連記事:【設備業】実行予算と実績の差異でわかる、自社の強みと伸びしろ
<ここまでのポイント>
・自社歩掛の役割は「試算の精度を上げる」こと
・実行予算・原価管理で蓄積したデータが、次の入札判断の材料になる
まとめ|赤字の原因を正しく理解し、自社でできる備えを固める
入札案件の赤字受注の多くは、自社の実行原価との差分から生まれます。赤字回避のために、自社歩掛による試算と入札金額の検討や参加可否の判断が実務的な対策になります。
<本記事のポイント>
Q. 入札後の赤字は何が原因か?
A. 赤字の実質的な原因として、実勢より低すぎる予定価格が考えられる。発注者が予定価格を積算する際、主要資材の単価を実勢より安く設定したり、施工に必要な数量を実際より少なく見積もっているケースが少なくない。
Q. 赤字を防ぐために、入札前にできることは?
A. 自社の実行原価を試算し、入札金額を検討する。予定価格が事前公表されている案件で、その金額でも利益が出ないとわかれば参加を見送ることも検討。
Q. 自社歩掛は入札にどう役立つのか?
A. 入札金額の算定には使えないが、入札前の試算の精度を上げ、次の入札での参加可否判断の材料になる。蓄積とメンテナンスを続けることが精度向上の鍵になる。
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