「歩掛は国交省の標準値を使っている」という設備業者は少なくありません。しかし標準値はあくまで平均的な目安であり、自社の技術力・職人スキルを反映していません。
自社歩掛とは、自社の施工実績から導き出した「自社専用の積算根拠」です。見積精度を高め、利益を安定させる自社歩掛の考え方と、データ蓄積の始め方を解説します。
目次
1. 【超おさらい】そもそも「歩掛」って何?考え方、使い方から確認
(1)歩掛の基本:人工と労務費の関係
(2)標準歩掛は参考値であって「正解」ではない
2. 標準歩掛だけでは見積精度が頭打ちになる理由
(1)現場条件・職人スキルで実績は標準値と大きくズレる
(2)「いつもの歩掛で計算」が赤字工事を生む仕組み
3. 「自社歩掛」と標準歩掛との違い
(1)自社歩掛の定義と標準歩掛との違い
(2)自社歩掛があると見積・原価管理がどう変わるか
4. 自社歩掛はどうやって作る?データ蓄積の3ステップ
(1)STEP1:工事ごとに実績工数・数量を記録する
(2)STEP2:工種別・条件別に実績を分類・集計する
(3)STEP3:自社標準値を設定し、次の見積に活かす
5. 改正建設業法と自社歩掛、法令対応がデータ蓄積の入口になる
(1)見積明細化で記録するデータが自社歩掛の材料になる
(2)自社歩掛は「著しく低い見積」への備えにもなる
6. 自社歩掛の蓄積をシステムで仕組み化する
(1)Excelでの管理が限界になる理由
(2)3工程をつなぐシステムが自社歩掛を自動育成する
まとめ|自社歩掛は「作る」だけでなく「育てる」
1. 【超おさらい】そもそも「歩掛」って何?考え方、使い方から確認
歩掛(ぶがかり)について、皆様もよくご存じかと思います。ただ、歩掛の考え方や使い方は会社ごとの差が大きく、我流のまま運用されているケースも少なくありません。この機会に、基本からおさらいしてはいかがでしょうか。
建設業界では「この工事、前回と似ているのでだいたいこのくらいで」といった、経験と勘に頼った積算が続けられてきました。この「経験と勘」を数値化したものが「歩掛」です。
(1)歩掛の基本:人工と労務費の関係
歩掛とは、ある作業を1単位こなすのに必要な人工数(にんくすう)を数値化したものです。たとえば、LED照明1台の取付歩掛が0.1人工なら、10台で1人工という計算になります。
見積上の労務費は「労務単価×歩掛×数量」で求められます。歩掛を明確な数値として持つことが、積算精度を上げる第一歩になります。
(2)標準歩掛は参考値であって「正解」ではない
「国交省の標準歩掛を使っているから正しい積算ができている」と考えるのは間違ってはいませんが、見積としての最適解ではないかもしれません。標準歩掛は、あくまで全国の標準的な施工条件における平均的な目安であり、自社の実態にマッチしているとはかぎらないからです。
●出典:国交省「公共建築工事標準単価積算基準(令和8年改定)」
<ここまでのポイント>
・歩掛は「経験と勘」の数値化
・標準歩掛は国交省が公表する全国平均の「参照値」
・標準歩掛を使う=自社の実態にあった積算ができているとは限らない
2. 標準歩掛だけでは見積精度が頭打ちになる理由
標準歩掛は積算の出発点として有用ですが、それだけに頼り続けると見積精度に構造的な限界が生じます。
(1)現場条件・職人スキルで実績は標準値と大きくズレる
高所作業や狭所、改修現場など、難易度が高い工事では、標準歩掛よりも工数がかかってしまう場合が多いです。そして、同じ作業でもベテランと新人では工数が変わり、自社の得意工種では標準歩掛より少ない工数で済むこともあります。
国交省でも毎年実態調査をもとに歩掛を改定していますが、標準値は過去の実態から割り出した「標準値」にすぎません。
●出典:国交省「令和8年度 国土交通省土木工事・業務の積算基準等の改定」
(2)「いつもの歩掛で計算」が赤字工事を生む仕組み
標準歩掛を盲信して使い続けると、現場ごとの小さなズレが積み重なり、赤字工事につながる可能性があります。根拠が標準値だけでは、なぜ赤字になったのかという原因究明もしづらくなります。あまりにも実態と乖離していると、改正建設業法における違反リスクにもなり得ますので、定期的に自社の実態と乖離していないかを確認することをお奨めします。
<ここまでのポイント>
・自社の技術力・職人スキル次第で、標準値との間でズレは生じる
・標準歩掛の使い回しが赤字工事を生む可能性がある
・実態と乖離した歩掛は改正建設業法の違反リスクにもなる
3. 「自社歩掛」と標準歩掛との違い
自社歩掛とは、国交省の標準値ではなく、自社の施工実績から導き出した「自社専用の歩掛」です。
(1)自社歩掛の定義と標準歩掛との違い
標準歩掛が国交省の定める全国標準の参照値であるのに対し、自社歩掛は自社の過去の施工実績から算出した「自社の標準値」です。自社の技術力・職人構成・得意工種が反映された、自社独自の積算根拠であり、他社には真似できない強みと競争力の源泉となる固有の資産といえます。自社歩掛は「社内歩掛」とも呼ばれています。
| 標準歩掛 | 自社歩掛(社内歩掛) | |
| 出所 | 国交省が制定・公表 | 自社の施工実績から算出 |
| 内容 | 標準的な施工条件における値 | 自社の技術力・職人構成を反映した値 |
| 用途 | 公共工事の積算のベース・参照値 | 民間工事の見積・実行予算の積算根拠 |
| 特徴 | 誰でも使える・透明性が高い | 他社には真似できない固有の競争資産 |
公共工事では標準歩掛を使い、民間工事の見積や実行予算では自社歩掛を使うというのが実務上は理想的です。
(2)自社歩掛があると見積・原価管理がどう変わるか
自社歩掛を持つことで、自社の実態に即した工数設定ができ見積精度が上がります。予算と実績のズレが小さくなるため赤字工事が減り、ズレが生じた場合も工種別・条件別に原因を追えるようになります。
属人化していたベテランの「勘」がデータ化されることで、技術・ノウハウの継承にもつながります。
<ここまでのポイント>
・自社歩掛は自社の施工実績から導き出した専用の積算根拠
・見積精度・赤字削減・原因究明・技術継承に役立つ
・他社が複製できない固有の競争資産になる
4. 自社歩掛はどうやって作る?データ蓄積の3ステップ
自社歩掛のメリットはご理解いただけたでしょうか。そうは言っても「どこから始めればいいかわからない」という方も多いと思います。難しく考えず、3つのステップから進めてみましょう。
(1)STEP1:工事ごとに実績工数・数量を記録する
まずは工種・作業内容・数量・実際にかかった工数を、工事ごとに記録します。現場条件も合わせて残しておくと精度が上がります。最初は工事日報や実行予算の実績欄に書き込むところからで十分です。
(2)STEP2:工種別・条件別に実績を分類・集計する
照明取付や配管、盤取付など工種別に実績を分類し、同じ工種でも現場条件を整理するとさらに精度が上がります。数件分の工事データが集まれば、自社歩掛の原型となる平均値が見えてきます。
(3)STEP3:自社標準値を設定し、次の見積に活かす
集計した実績の値を「自社標準歩掛」として設定し、次の見積で使いながら実績と比較していきます。データが増えるほど精度は上がるため、継続することが最大の鍵になります。
<ここまでのポイント>
・STEP1:工種・数量・実績工数を記録する
・STEP2:工種別・条件別に整理・分類・集計する
・STEP3:自社標準値を設定し、使いながら精度を高める
5. 改正建設業法と自社歩掛、法令対応がデータ蓄積の入口になる
改正建設業法への対応と自社歩掛の構築は、実は深くつながっています。
(1)見積明細化で記録するデータが自社歩掛の材料になる
改正建設業法が求める見積明細には、工種別の労務費・歩掛・数量が求められます。この明細を実行予算(原価管理)と照合することで、自社歩掛のデータの元が自然と蓄積されていきます。法令対応にかかるコストは、そのままデータ資産の構築につながっているのです。
(2)自社歩掛は「著しく低い見積」への備えにもなる
改正建設業法のもとでは、不当に効率の良い歩掛の設定は違反リスクになります。自社歩掛があれば「なぜこの歩掛にしたのか」を実績データで説明でき、建設Gメンや取引先からの確認への対応力も上がります。
関連記事:【2026年最新】改正建設業法 施行後公表の積算ルールと設備業の実務対応
<ここまでのポイント>
・見積明細化で整備するデータが自社歩掛の材料になる
・自社歩掛は違反リスクへの備えにもなる
・法令対応はコストではなくデータ資産への投資
6. 自社歩掛の蓄積をシステムで仕組み化する
データ蓄積の重要性がわかっていても、毎回手作業での記録・集計は現実的ではありません。仕組みとして整えることが継続のカギです。
(1)Excelでの管理が限界になる理由
集計といえばExcelが思い浮かぶ方も多いと思いますが、Excelでは集計作業や比較に手間がかかります。見積と実行予算のデータが別管理になると、照合に時間がかかるうえ、入力ミスや転記漏れも起きやすく、担当者が変わって過去データが埋もれるといった事態も起こりがちです。
(2)3工程をつなぐシステムが自社歩掛を自動育成する
拾い出し→積算見積→実行予算が一気通貫でつながれば、工事ごとのデータは自動的に蓄積されます。見積の歩掛と実績工数の照合も自動化され、差異がすぐに可視化されます。
こうじやさんシリーズv3は、この3工程を一気通貫でつなぎ、日々の業務がそのまま自社歩掛データの育成につながる仕組みです。
関連記事:【設備業】DXなきAIは空回り|自社データを競争力に変える
<ここまでのポイント>
・Excel管理は継続・集計・照合に限界がある
・3工程がつながるシステムが、日々の業務を自社歩掛データに変える
・仕組み化なしに継続的なデータ蓄積は難しい
まとめ|自社歩掛は「作る」だけでなく「育てる」
自社歩掛は一度作れば完成するものではなく、実績を積み重ねるごとに精度が上がる「育てるデータ」と言えます。見積精度の向上・赤字削減・技術継承・法令対応など、自社歩掛の活用で解決できる課題が実は多いのです。
自社独自の歩掛を作るというと難しそうに思えますが、始め方はシンプルで、工事ごとに工種・数量・実績工数を記録していくことから始められます。特に、各工程をつなぐシステムで仕組み化すれば、日々の業務がそのままデータ資産として蓄積されていき、高度なスキルや知見なしで自社歩掛を作れます。
こうじやさんシリーズv3のデモで、自社歩掛の育て方を実際に体験できます。ぜひ石田データサービス担当までお問い合わせください。
