建設業は3月決算の会社が多く、3月は年度末であると同時に次年度の準備期間でもあります。今年度の赤字工事を最小化し、来期は赤字を撲滅できるかどうかの分岐点となるでしょう。
改正建設業法により、標準労務費を著しく下回る見積もりは原則禁止となりました。これまでの「労務費で調整すれば何とかなる」という考え方が通用しなくなり、適正な原価管理が収益確保の絶対条件となるでしょう。
3月中に完了すべき「赤字工事の洗い出し」「次年度に向けた実行予算策定」「リアルタイム原価管理の準備」を、アクションプランに落とし込む方法を解説します。
目次
なぜ3月の「年度末総点検」が2026年度の利益を決めるのか
1.【年度末緊急】決算で発覚する赤字工事を撲滅する
(1)今年度の赤字工事を3月中に特定する方法
(2) 標準労務費導入による原価割れリスク
(3) 年度末駆け込み契約の落とし穴
2.標準労務費時代の「適正実行予算」策定フロー
(1)改正法対応で実現する3つの経営効果
(2)法令遵守と利益確保を両立する実行予算の組み方
(3)自社歩掛を「説得材料」にした価格交渉術
(4)新年度から始める「自社歩掛デジタル化」準備
3.【DX活用】赤字を未然に防ぐ「リアルタイム工事原価管理」
(1)なぜ「月次締め」では年度末に間に合わないのか
(2)中小企業でも実現できるリアルタイム管理3ステップ
(3)リアルタイム管理がもたらす3つの経営判断
4.次年度に向けてやっておくとよい準備
(1)年度末決算の原価チェック
(2)標準労務費対応フォーマット整備
(3)業務標準化・デジタル化計画策定
(4)建設Gメン対策の最終確認
【まとめ】3月中の準備が次年度の収益をつくる
【年度末緊急】決算で発覚する赤字工事を撲滅する
(1)今年度の赤字工事を3月中に特定する方法
決算が終わってみて初めて赤字が発覚する会社があります。税理士さんから決算書が届くのが4月下旬もしくは連休明けになると、次年度への対策がだいぶ後手に回ってしまいます。
できるだけ3月中にすべての進行中・完成工事の収支を洗い出し、赤字工事を特定することをお勧めします。赤字工事が見つかったら原因を分析しましょう。原因の特定が来期の対策につながります。
<確認すべき項目>
・実行予算と実際原価の差額
・追加工事の有無と請求状況
・未回収の債権
・完成見込みの工事での最終原価予測
よくある原因としては、材料費・労務費の見積ミス、工期遅延による人件費増加、追加工事の請求漏れ、資材価格高騰への対応遅れなどがありますが、Excelや紙の台帳では赤字工事の特定すらかなり大変な作業です。工事原価管理システムを導入していれば、ワンクリックで一覧表示できたり、フラグを立てたりできます。
(2)標準労務費導入による原価割れリスク
改正建設業法による標準労務費の義務化で、「安い労務費」で利益を確保していた工事は確実に原価割れします。必ず、見積段階から標準労務費を反映させることが赤字回避の第一歩です。 一方、改正法施行前に契約して2024年4月以降に着工したケースは要注意です。契約時の見積が旧基準の労務費で計算されていると、実際に支払う賃金(標準労務費)との差額が赤字要因になります。人手不足の影響で着工が遅れるケースもあり、この問題は2026年度以降にも継続して起こりえます。
関連記事:改正建設業法「労務費の標準」義務化!DXで法対応と経営力底上げ
(3)年度末駆け込み契約の落とし穴
実は、予算消化の駆け込み発注にもリスクがあります。急かされてあまり検討せずに受注してしまい、ふたを開けてみたら赤字というケースも。注意すべきは、短工期と仕様書が曖昧な案件です。短工期で残業代や休日出勤手当がふくらむ、曖昧な仕様で追加工事が発生するなど、トラブルの種が隠れている可能性があります。駆け込み受注でも、利益を確保できるかを冷静に判断することが重要です。
<ここまでのポイント>
•3月中に全工事の収支を洗い出し、赤字工事を特定し、次年度に備える
•改正法施行前の工事が標準労務費義務化で原価割れするリスク
•年度末駆け込み案件は「利益が出るか」を冷静に判断
標準労務費時代の「適正実行予算」策定フロー
(1)改正法対応で実現する3つの経営効果
標準労務費への対応を「コスト増」とだけ捉えるともったいないです。適切に見積金額に反映すればプラスになります。3つの経営効果を解説します。
1. 赤字工事の撲滅
標準労務費を基準に実行予算を組めば、受けてから赤字が判明する事態を防げます。見積段階で利益が出ない案件は受けない判断ができます。
2. 発注者との適正な価格交渉
標準労務費は国が定めた基準であり、これを著しく下回る契約は違法です。法律という根拠に基づいて、発注者からの値下げ要求を回避しやすくなります。
3. 人材の定着率向上
適正な賃金を支払えるようになると、離職率の低下や若手人材の流入を期待できます。流入増と流出減による人材確保の好循環が生まれます。
関連記事:【12月施行!改正法「標準労務費」の概要】法対応で利益を守る実務対策
実行予算の基本は、材料費・労務費・外注・経費を正しく分類して積み上げることです。この4つの合計で、適正な利益を確保できているか確認します。利益が出ない案件は、発注者と価格交渉するか、受注を見送る判断が必要になります。それぞれの留意点を解説します。
①材料費
資材価格は変動するため、見積時点の単価ではなく、実際の発注予定単価で計算します。できるだけ最新の単価を反映させましょう。
②労務費
職種別に何人工かかるかを、歩掛に基づいて算出します。標準労務費を最低基準とし、自社の賃金体系に合わせて上乗せします。残業代・休日出勤が見込まれる場合はその分も計上します。
③外注
外注の見積にも注意が必要です。標準労務費は発注者の立場になった時にも遵守しなくてはいけません。
④経費
「何となく〇%」ではなく、実際にかかる費用を積み上げて計算しましょう。現場管理費(現場事務所費、仮設費、安全対策費など)と一般管理費(会社運営費、事務費など)を分けて計上します。
関連記事:実行予算とは、組み方と活用方法、工事管理で注意すべきポイント
(3)自社歩掛を「説得材料」にした価格交渉術
発注者から「他社はもっと安い」と言われた際、自社歩掛のデータがあれば、客観的な根拠として提示でき、「法令遵守した適正価格」として説得力が増します。自社歩掛が整備されていないと根拠が弱く、交渉が不利になりがちです。
関連記事:改正建設業法で変わる見積の常識 「自社歩掛」を取り入れて差別化
(4)新年度から始める「自社歩掛デジタル化」準備
自社歩掛によって実行予算の精度が劇的に向上し、赤字工事を未然に防げます。さらに自社歩掛のデジタル化で積算見積や工事原価管理の精度がアップします。まず「どの作業の歩掛を記録するか」「誰が記録するか」などを決め、データを蓄積するとスムーズです。
<ここまでのポイント>
•標準労務費対応で赤字撲滅・価格交渉の根拠・人材確保の3つの効果
•材料費・労務費・外注・経費を精緻に積み上げ、利益率を確認
•自社歩掛が価格交渉の説得材料になる
•自社歩掛のデジタル化でさらに効率アップ
【DX活用】赤字を未然に防ぐ「リアルタイム工事原価管理」
(1)なぜ「月次締め」では年度末に間に合わないのか
税理士の月次報告は月締め後1ケ月から1ケ月半後になる場合が多いようです。これでは赤字が判明したときには完工している場合もあり、リカバリーが難しいです。例えば、2月の原価割れが3月に判明しても既に工事は進行しており、対策が打ちづらいです。決算後に赤字が判明という最悪の事態を避けるには、工期途中でもリアルタイムでの原価把握が不可欠です。
(2)中小企業でも実現できるリアルタイム管理3ステップ
リアルタイムの管理でメリットがあるのは大企業だけではありません。会社規模に関係なく、赤字工事をなくすには最適の方法です。工事原価管理システムを導入し、業務プロセスをシステムにあわせるだけで容易にリアルタイムの工事原価管理が実現できます。
ステップ①:日々の支出をその日のうちに入力
材料費の発注、労務費の実績、外注費の計上、経費の支払いを、発生した日にシステムに入力します。スマホやタブレットから入力できるため、現場でも事務所でもすぐに記録できますし、現場管理者でなくても代理入力できます。
ステップ②:実行予算と実績の差異を毎日確認
見積から実行予算を組めば実績との比較が容易になり、予定した収益との差分を把握できます。労務費や材料費の予算オーバーなどが即座にわかります。
ステップ③:赤字の兆候が出たら即座に対策
予算との差分が誤差の範疇を超えた場合は、早急に対策を打つ必要があります。
材料の調達先変更、作業手順の見直し、発注者への追加請求など、数値的な根拠を基準として早期に対応できるようなり、赤字を最小化できます。
関連記事:設備業の収益性向上!利益率アップのカギとなる積算見積と原価管理
(3)リアルタイム管理がもたらす3つの経営判断
工事原価の把握は収益の可視化であり、経営判断の重要な指標となります。
1. 追加工事の請求タイミングを最適化
追加作業が発生した時点ですぐに原価を把握し、客観的な根拠をもって発注者との交渉に臨めます。追加工事の請求漏れも回避できます。
2. 資金繰りの精度向上
「今月いくら支払いがあるか」をリアルタイムで把握できれば、資金繰りの精度が向上します。資金ショートを回避できるほか、金融機関などへの説明資料にも流用できます。
3. 受注判断の高速化
現在進行中の工事の収支とそれに伴う資金繰りの精度が向上すれば、「新しい案件を受けても大丈夫か」といった判断がスピーディかつ的確に下せるようになります。無理な受注を避け、安定した経営が可能になります。
<ここまでのポイント>
•月次締めを待っていては収支の把握が遅くなり、対策が間に合わない
•日々入力→差異確認→即対策の3ステップでリアルタイムな管理
•追加請求・資金繰り・受注判断の3つの経営判断が高速化
次年度に向けてやっておくとよい準備
次年度の赤字工事対策としてやっておくべき準備をまとめました。年度末に完了していることが望ましいですが、新年度にずれこんでもやっておけば、新年度を赤字ゼロでスタートできます。
(1)年度末決算の原価チェック
□ 全工事の実行予算と実際原価の差異を確認
□ 赤字工事の特定と原因分析
□ 追加工事の請求漏れチェック
□ 完成見込み工事の最終原価予測
(2)標準労務費対応フォーマット整備
□ 標準労務費を反映した見積フォーマット作成
□ 実行予算フォーマットの見直し(材料費・労務費・外注費・経費の明確化)
□ 職種別労務費単価表の最新化(国交省公表データ反映)
□ 利益率の最低基準設定
(3)業務標準化・デジタル化計画策定
□ 自社歩掛の整備・デジタル化の対象作業の選定
□ 工事原価管理システムなどデジタル化の検討 ※クラウド型推奨
□ リアルタイム原価管理の運用ルール策定
□ 運用マニュアル・社内研修の実施検討
(4)建設Gメン対策の最終確認
「建設Gメン」は、現場を訪問して標準労務費の遵守状況を確認します。違反が見つかれば指導や勧告の対象となり、悪質な場合は社名公表もあり得ます。違反しないことが大前提ですが、現場の理解不足で誤解を招かないよう備えましょう。
□ 労務費台帳の整備(職種別・日別の記録)
□ 賃金台帳と実行予算の整合性確認
□ 下請業者への標準労務費遵守の確認書取得
□ Gメン訪問時の対応マニュアル作成、研修
<ここまでのポイント>
•年度末に準備完了していればベストだが、遅れてもやったほうが良い
•チェックリストで準備漏れを防止
まとめ──3月中の準備が2026年度の収益を決める
改正建設業法による標準労務費義務化は、建設業の収益構造を根本から変えつつあります。発注者に言われるがまま労務費を削る時代は終わり、適正な実行予算と適切な原価管理で賃金と収益を守ることが生き残りの条件です。
年度末に赤字を洗い出し、新年度に向けて標準労務費対応を整備することで、赤字ゼロを目指せます。リアルタイムに管理できる工事原価管理システムを導入すれば、赤字の兆候を早期に発見して、対策を打てます。
実行予算の精度を劇的に高める「自社歩掛のデジタル化」は強い武器になるはずです。自社の実績データを蓄積し、適正な見積と価格交渉の根拠にすることで、安定した収益確保が可能になります。DXによって、自社歩掛と積算見積、実行予算と工事原価管理を連携させることで経営基盤の強化が実現します。
