
公共工事は安定した収益源となる可能性を秘めていますが、実績がない会社にとっては、入札が物理的にも心理的にもハードルになっています。しかし、入札案件の選定や経営事項審査の加点対策、デジタルツールの活用によって、少ない労力で条件のよい案件を受注できる可能性があります。入札の勝率を高める実践的な対策と建設業法改正の影響について解説します。
目次
-中小企業も落札できる!公共工事を受注するメリット
-入札初心者にもできる!勝率を高めるポイント
・ターゲット選定が重要!狙い目は事前公表の物件
・経営審査事項の加点が重要視される理由と加点対策
・デジタル活用で入札価格算出を効率化する
・経営審査事項への対策もデジタルで効率アップ
-入札にも影響する建設業法の改正ポイント
(1)改正による技術者確保の緩和
(2)価格転嫁の適正化
(3)総合評価審査の加点対象になる取り組み
-入札初心者でも大丈夫!メリットの多い公共工事を狙っていこう!
中小企業も落札できる!公共工事を受注するメリット
公共工事の入札において、中小規模の建設業者の参入を促進する動きが進んでいます。中小企業が参加しやすくなるよう過去の実績や規模に関する条件が緩和され、受注しやすい小規模な公共工事が増加しています。また、中小企業の競争力を高めるための技術者の育成を支援する制度も整備されています。
中小規模の建設業者にとって、公共工事を受注するメリットは大きいです。民間工事に比べて代金の支払いが確実でキャッシュフローが安定しますし、前払金制度や中間前払金制度、部分払制度などがあり、工事の進捗に応じて段階的に代金を受け取ることもできます。
公共工事の受注実績は技術力や経営の健全性を示す指標となり、会社の信用力が向上します。金融機関などでも評価されるポイントです。経営事項審査(以下、経審)で公共工事の実績が評価されると、次回以降の入札における総合評点が上がり、より規模の大きな工事への参加資格を得られるなどの相乗効果もあります。
<ここまでのポイント>
・中小規模の建設業者が公共工事の入札に参入しやすくする取り組みが進んでいる。
・公共工事には、キャッシュフローの安定、信用力向上などのメリットがある。
入札初心者にもできる!勝率を高めるポイント
ターゲット選定が重要!狙い目は事前公表の物件
入札にはさまざまな工事があり、まずは参加資格をしっかりチェックしましょう。入札公告や入札説明書に記載されている要件を満たしていないと失格となります。地域要件や技術者配置条件などの条件もありますので、自社が確実に対応できる案件を選定することが大切です。
できるだけ競合が少ない案件を狙うことも効果的です。公共工事の入札結果は公開されていますので、発注機関のホームページで閲覧できます。過去の落札状況から競合しそうな会社や同種の工事がどのくらいの金額で受注されたかを把握できます。より勝てそうな案件を選定しましょう。
おすすめしたいのは、予定価格が事前公表されている物件です。予定価格がガイドラインになりますので、積算の手間を減らせます。効率よく、入札の勝率を高めることができます。
参考記事:効率重視の入札対策は、予定価格を事前公表する物件が狙いめ!
経営事項審査の加点が重要視される理由と加点対策
公共工事の入札参加資格は、経審は「工事種類別年間平均完成工事高」「自己資本額」「経営状況」「技術力」「その他の審査項目(社会性等)」の5項目を総合した「総合評定値(P点)」が基準となっています。 ほとんどの発注機関で、総合評定値(P点)の点数が高いほど、より規模の大きい工事や高額な案件に参加できる資格を得られます。 以下のような取り組みが加点対象となります。各自治体の入札要項やガイドラインに詳細が記載されています。
・ISO9001(品質管理)やISO14001(環境管理)認証の取得
・CPD(継続学習制度)ポイントの取得
・建設業退職金共済制度への加入、労災保険の無事故期間など福利厚生の充実
・建設機械の保有数
・地域の防災協定への参加や災害復旧活動の実績など
参考記事:CPD受講で経営事項審査が加点され、総合評価方式の入札も有利に!
デジタル活用で入札価格の算出を効率化する
現在は「総合評価落札方式」が主流になっており、価格だけで落札者が決まる入札は少なくなっていますが、入札価格の算出は入札の勝敗を決める重要な要素です。
「公共建築工事積算基準」や「土木工事標準積算基準書」に対応した積算見積ソフトを使用することで、材料費や労務費、機械経費などを正確かつ迅速に計算できます。また、公共工事入札の最低制限価格を算出できる経費計算ツールなど、入札に関する業務を効率化できるデジタルツールもあります。
入札では、落札できなければ準備にかけた時間は無駄になります。デジタル活用で入札準備を効率化し、ほどよい労力で効率よく落札することをめざしましょう。
参考記事:【入札対策】低入札価格調査基準の計算式改定、入札の勝率を上げるポイント
経営事項審査への対策もデジタルで効率アップ
デジタル活用は経審への対策にも有効です。申請に必要なデータの収集や集計作業は、デジタル化で大幅に軽減できますし、人的なミスも削減できます。たとえば、工事台帳がデジタル化されていれば、工事実績情報システム(CORINS)への登録や工事経歴書の作成に必要な公共工事の実績を簡単に抽出できます。また、資格取得状況や継続教育ポイント(CPD)は人事管理システムなどで管理できます。
経審への対応を効率化できるだけなく、総合評定値に影響する情報を把握しやすくなりますので、加点対策を考えやすくなります。
<ここまでのポイント>
・自社の強みを活かせる、できるだけ競合が少ない案件を選ぶ。
・予定価格を事前公表する物件がおススメ。
・デジタル活用で入札準備を効率化し、ほどほどの労力で効率よく落札しよう。
入札にも影響する建設業法の改正ポイント
(1)法改正による技術者確保の緩和
2023年の建設業法改正で技術者配置要件の緩和が図られ、一定の条件下で技術者の専任配置が不要となるケースが拡大されています。たとえば、監理技術者補佐の配置による監理技術者の兼任や遠隔での施工管理による常駐要件が緩和されています。
(2)価格転嫁の適正化
資材価格高騰への対応や人件費を上昇させる取り組みの中で、2025年の改正では、適正な請負代金の設定と価格転嫁の仕組みが盛りこまれています。スライド条項の適用や最新の労務単価が予定価格への反映も進んでいます。
・契約書への記載事項の追加
価格変動や変更に基づく工事内容の変更、請負代金の変更と算定方法を記載することが義務化。
・価格転嫁協議の円滑化
受注者は請負代金や工期の変動リスク(おそれ情報)を通知する義務を負い、それを受けた注文者は価格転嫁の協議に誠実に応じる努力義務が課される。
・適正な請負代金の設定
労務費や原材料費の価格上昇を反映した請負代金の設定を促進。低入札価格調査制度や最低制限価格制度の運用を強化。
(3)総合評価審査の加点対象となる取り組み
2025年の法改正の中で、加点対象となると見込まれる取り組みの一部を紹介します。いずれも、入札の勝率アップにつながりますが、労務費見積り尊重宣言は、設備投資や準備期間なしで即効性を期待できる取り組みです。
・労務費見積り尊重宣言の決定と公表
元請け会社が一次請け業者に対して、見積りへの労務費内訳の明示を求め、それを尊重することを宣言する取り組みです。総合評価方式での加点対象となる見込みです。ホームページなどで「労務費見積り尊重宣言」を公表し、発注者に対して誓約書を提示することで、社会保険加入の促進や労働環境改善への取り組みとして評価されます。
・ICT活用の促進
3次元データの活用やドローンによる測量、ICTによる現場業務の効率化など、ICT施工の実績を評価。施工能力評価型および技術提案評価型の総合評価方式で取り入れられています。
・NETIS登録技術の活用
2024年度に評価基準が明確化された国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録された技術を活用した実績は、工事成績評定や総合評価落札方式での加点対象となる仕組みが強化されます。生産性向上や環境負荷低減に貢献する技術の活用が高く評価される傾向があります。
<ここまでのポイント>
・2025年の法改正で、新たに加点対象となる見込みの取り組みがある。
・労務費見積り尊重宣言は、設備投資や準備期間なしで即効性を期待できる。
入札初心者でも大丈夫!メリットの多い公共工事を狙っていこう!
建設業法改正による技術者確保の緩和や価格転嫁の適正化、さまざまな取り組みへの加点評価など、公共工事入札を取り巻く環境は中小建設業者にとって追い風となると考えられます。
中小建設業者にとって、支払いが確実な公共工事は安定した収益源となり、キャッシュフローの安定や信用力アップなど、経営基盤の強化につながります。
営業活動を行わずに受注できるのも魅力のひとつで、経営事項審査を意識した経営戦略やデジタル活用で、効率よく受注できるメリットがあります。特に、入札業務の効率化と精度向上には、積算見積や原価管理、経費計算などのシステムが有効です。そして、総合評定値を高める取り組みは、入札対策だけでなく、企業としての総合力が高まるといった副次効果も期待できます。