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  5. 設備業界に迫るデジタル格差の現状分析淘汰リスクと対策を考察【前編】 なぜ設備業界はデジタル化に遅れるのか?設備業DXの5つの壁

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 労働人口減少、高齢化、物価高、建設業法改正、設備業界を取り巻く環境は激変しています。世界デジタル競争力ランキング2024で31位と低調な日本社会の中でも、建設業界のDX推進は下位にあたります。その建設業界の中でのデジタル格差も広がり始めており、デジタル化の遅れによる淘汰されるリスクが他人事ではない状態になりつつあります。

 そこで、設備業界に迫るデジタル格差の現状と淘汰リスク、それらを乗りこえる対策について、2回にわたって考察していきます。前編では、設備業におけるデジタル格差の現状とデジタル化を阻む課題について考察します。

目次
-日本のデジタル化遅れの実態「中小企業はまだFAXを使っている」
-設備業界のDX格差の実態:データが示す「二極化」の深刻さ
・中小企業のDX推進率42%の現実を設備業界に当てはめたら?
・DXで解消できる建設・設備業界特有の課題
・DX導入で期待できる効果
-なぜ設備業のDXは進まないのか?5つの「業界特有の壁」
・設備業DXの壁①:「デジタル=現場軽視」という誤解
・設備業DXの壁②:デジタル格差を生む人材課題
・設備業DXの壁③:投資対効果への不安
・設備業DXの壁④:業界慣習と取引先との関係
・設備業DXの壁⑤:技術変化の速さへの戸惑い
-設備業界と会社の未来を決める「今」という分岐点

日本のデジタル化遅れの実態「中小企業はまだFAXを使っている」

 スイスの国際経営開発研究所(IMD)は、2024年11月に世界デジタル競争力ランキング2024 を発表しました。日本は前年調査から1つ順位を下げ、31位という厳しい結果となりました。この順位を裏付ける実態が、2019年に発表された経産省の調査に表れています。この中小企業を対象とする調査では受注方法についての設問があり、約7割が「FAXで受発注業務を行っている」という結果になっています。建設業でみれば、電話60.6%、FAX50.9%、メール59.4%となっています。建設業界でもFAXが健在であることがわかります。

出典:IMD世界デジタル競争力ランキング2024
2024年世界デジタル競争力ランキング、日本は総合31位 課題は「将来への準備」 – IMD business school for management and leadership courses

出典:経営診断ツールの認知・活用状況及び、決済・資金調達の実態に関する調査(経済産業省、委託先:帝国データバンク)

 建設業界でFAXが根強く使用される理由のひとつには、受発注には図面のやりとりが必須であり、紙の図面をそのまま送れるFAXの利便性がニーズにあっていると考えられます。しかし、現在はデジタルの図面が浸透しています。それでもデータで受け取った図面を印刷して作業に用いたり、わざわざ紙に印刷してからFAXで送信している会社もあります。こうした状況を打開するために必要なのは、現場の利便性とデジタル活用は対立しないという「気づき」です。デジタル技術により、現場の安全性向上、作業効率の改善、品質管理の精度向上を期待できると考えられます。

 そして、発注者である大手ゼネコンやデベロッパーからのデジタル対応の要求は、本格化するでしょう。電子契約や電子購買、クラウド型のプロジェクト管理、デジタル図面共有などに対応できないことが、受注機会を失うリスクにつながる可能性があります。

<ここまでのポイント>
・日本のデジタル競争力は世界31位という厳しい現実
・建設業でも図面のデジタル化は浸透しているにも拘わらず、FAXによる受発注が健在
・発注者側である大手ゼネコンからのデジタル対応の要求は加速していく

設備業界のDX格差の実態:データが示す「二極化」の深刻さ

中小企業のDX推進率42%の現実を設備業界に当てはめたら?

 中小企業基盤整備機構の調査では、DXに「既に取り組んでいる」または「取り組みを検討している」企業は42. 0%と前年調査から10.8ポイントも伸びています。業種別でみると、建設業界では「既に取り組んでいる」または「取り組みを検討している」の合計が38.0%と全体よりも低いことがわかります。さらに深刻なのはDXの理解度で、「理解している」と回答したのは15%という結果でした。

出典:中小企業のDX推進に関する調査(2024年)

DXで解消できる建設・設備業界特有の課題

 建設業界の担い手不足については、待遇改善などの取り組みも行われていますが、社会全体の労働人口が減少しているため、根本的な解消は難しく、業務効率化や生産性向上で対応する必要があります。

 建設業では、現場と事務所が離れていることが原因で情報共有が遅れ、それが進捗管理や意思決定に支障をきたす原因となりがちです。安全管理や労務管理においても現場の状況を把握しづらいことでリスク対応が後手に回る場合があります。また、図面や書類作成・更新の作業が多く、現場管理や工程管理の事務処理は煩雑であり、現場管理者の業務負荷が大きくなっています。さらに、ベテラン層の知見が属人化し、若手への技術継承が進まないケースも少なくありません。

 これらの業界特有の課題は、デジタル化・DXによって、業務の正確性・効率性を高めながら、解決することが可能です。

DX導入で期待できる効果

 デジタル化・DXによってさまざまな効果を期待できます。
たとえば、積算見積システムの導入により、手作業では2、3日かかる見積作成が数時間でできるようになります。過去の施工データを活用することで見積精度が向上し、属人化の解消と標準化を実現できます。工事原価管理システムによってリアルタイムに工事原価を把握できると、予算超過を早期発見できるようになり、利益率向上を期待できます。スマートフォンを活用した勤怠管理システムにより、現場からの打刻や報告が可能になり、集計作業の削減と現場情報のリアルタイム共有を実現できます。工程・安全管理の精度向上につながります。これらのシステムを連携することで、拾い出し~見積作成~受注~施工管理~完工・請求までの業務を一元化でき、業務の見える化と効率化が実現します。

 さらに働き方改革の観点では、業務のデジタル化によってリモートワーク環境が整い、柔軟な働き方ができるようになると人材確保や従業員満足度の向上につながります。

参考記事:建設業の利益率は18~25%目安デジタル化が利益増加につながる?

<ここまでのポイント>
・積算見積、工事原価管理、工事日報の一元化で業務の見える化や効率化ができる
・業務のデジタル化によってリモートワーク環境が整い、柔軟な働き方ができる

なぜ設備業のDXは進まないのか?5つの「業界特有の壁」

設備業DXの壁①:「デジタル=現場軽視」という誤解

 建設業では現場業務をデジタル化することに対して、従来の現場のあり方を軽視すると捉える誤解があります。特に経験豊富な熟練職人ほどその傾向が強いようです。冒頭のFAXによる受発注業務のように、紙の書類のやりとりも根強く残っています。

 本来、デジタル活用は現場周辺をとりまく効率の悪さを解消することで、施工業務に集中しやすくすることをめざすものです。こうした認識のギャップを埋めるには、現場で働く人たちがデジタル化のメリットを実感できる小さな成功体験から始めることが重要です。

設備業DXの壁②:デジタル格差を生む人材課題

 建設業の就業者を年齢別で見ると65歳超が16.8%ともっとも多く、60~64の9%と合わせると、60歳以上が全体の約25%を占めています。このデータをデジタル活用という視点で見ると、デジタルネイティブ世代の29歳以下は11.7%(15-19歳:0.6%、20-24歳:4.2%、25-29歳:6.9%)となっており、全体の1割強にすぎないのです。業界内にもデジタル格差が存在しています。

 現在の建設現場は60歳以上のベテラン層に支えられていますが、この層がデジタル化の障壁となる可能性があります。ベテラン層の活用促進がデジタル化の重点課題であることは明らかです。

出典:建設業デジタルハンドブック/年齢階層別建設業就業者数の推移(日本建設業連合会)
4. 建設労働 | 建設業の現状 | 日本建設業連合会 資料出所:総務省「労働力調査」

設備業DXの壁③:投資対効果への不安

 デジタル化への最大の不安はIT投資を回収できるかという点でしょう。2023年に東京商工リサーチが実施したDXに関するアンケートでは、中小企業のDX投資予算は100万円未満が最多となっていますが、設備業向けのシステムであれば、この予算内でも十分な効果を期待できるものがあります。小規模から始めることで投資リスクを抑制できます。費用面だけでなく業務負荷の面でも、段階的に導入して全業務に展開していくスモールDXが適していると言えます。IT導入補助金(最大450万円)を活用すれば、初期投資の負担を大幅に軽減できます。

参考記事:設備業のDXは低予算、スモールスタートで成功させる!

出典:「DXに関するアンケート」調査(東京商工リサーチ)

設備業DXの壁④:業界慣習と取引先との関係

 これまで、長年の業界慣習がデジタル化の障壁となっていました。しかし、建設業法改正により、建設業界の商習慣は根底から変わろうとしています。このタイミングでデジタル化に舵を切ることができないと、建設業界全体の変化に取り残されてしまうリスクがあります。根強いFAX文化も取引先ありきだったと思われますが、デジタル化の取り組みが今後の関係強化につながる可能性もあります。

参考記事:【建設業法改正】改正ポイントとデジタル活用による対策を徹底解説

設備業DXの壁⑤:技術変化の速さへの戸惑い

 若手とベテランのデジタル格差について先述しましたが、経営者自身がデジタル化や技術革新のスピードに戸惑うケースも少なくありません。経営者が消極的になってしまうと、会社全体が変化から取り残されてしまいます。 目先の新しさを追いかけるのではなく、自社の課題解決に必要な技術やソリューションを導入することで、現実的かつ効率よくデジタル化を進めることができます。部分的でよいので、利用可能な技術から段階的に導入し、試行錯誤しながら新しい技術を取り入れていくことをお勧めします。

参考記事:デジタル化のメリットとリスクとは。設備業ならではのポイントを解説

<ここまでのポイント>
・デジタル化で現場周辺の効率の悪さを解消し、施工業務に集中しやすくする
・建設現場を支えるベテラン層へのデジタル活用促進が課題
・投資対効果のリスク回避には、小さく始めて全体に広げるスモールDX

設備業が抱えるデジタル化・DXの課題、それを乗り越える取り組みとは

 設備業界に迫るデジタル格差の現状と影響を考察する前編では、設備業DXの壁となる課題について解説しました。

 改正建設業法に盛りこまれているデジタル化を推進する施策やIT導入補助金の予算拡大からわかるように、政府はデジタル化の遅れによる国際競争力の低下や社会基盤の崩壊などの危機感を抱いています。

 当事者である皆さんには、デジタル化の遅れで淘汰されるリスクへの危機感をお持ちでしょうか。

 後編では、本記事で挙げた課題を踏まえた「今すぐ始められる現実的なDX戦略」について、具体的なステップと成功のポイントを解説します。小さく始めて全体に広げていくアプローチで、中小企業の設備業者のデジタル化成功への道筋をお示しします。

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