「工事原価管理」というと、受注後の守りの施策というイメージをお持ちではないでしょうか。実際は適切な原価管理ができていると、入札や見積あわせで攻めのスタンスを持てるようになります。
資材価格高騰が続くなか、感覚で決めた単価で見積を作り続けていると利益を削られ、単価の根拠を持てないことが、値引き交渉において不利になります。原価管理の精度が、価格交渉力そのものになります。資材価格の変動を正確に見積に反映し、利益を守るための原価管理の考え方と実践方法を解説します。
目次
【現状把握】なぜ今、資材原価管理が経営を左右するのか
1. 見積単価のズレが利益を消す3つのパターン
(1)見積後の資材価格高騰への対応遅れ
(2)古い資材マスタをそのまま使い続けるリスク
(3)複数担当者によるバラバラな原価管理の弊害
2. 価格変動リスクを可視化する「原価管理」の仕組み
(1)資材マスタの更新ルールを整備する
(2)建設物価・市場価格との連携で最新単価を反映
(3)見積ごとに単価の根拠を記録・比較する
3. 「勝てる見積」を作るための実践フロー
(1)受注前に原価割れリスクを事前チェック
(2)価格変動を発注者への価格交渉の根拠にする
(3)過去見積との比較で精度を継続改善
4. 今から始める原価管理の整備ステップ
(1)現状の原価管理方法を棚卸しする
(2)デジタル化で資材マスタを一元管理
(3)見積システムとの連携で属人化を解消
【まとめ】原価管理の精度が利益率を決める
【現状把握】なぜ今、資材原価管理が経営を左右するのか
資材価格の高騰が止まりません。右肩あがりの価格上昇を把握し、見積に反映できているかが、利益を確保できるかどうかの分かれ目になります。
建設資材の価格高騰は、構造的な問題になっています。2021年1月比で土木資材は+41%、建築資材は+37%に達しており、異形棒鋼(+54%)・生コン(+69%)・H形鋼(+46%)・アスファルト(+52%)など主要資材の上昇幅はさらに大きくなっています。
100億円規模の建設工事では、労務費と原材料費の合計が2021年比で106〜120億円へと膨らんでおり、見積を130億円規模に修正しなければ原価割れするという試算も示されています。
これだけのコスト上昇に加えて、「何となく以前の金額で出している」「担当者ごとに見積単価が違う」といった問題が積み重なると、完工後に赤字が発覚したり、受注する時点で赤字だったりする可能性もあります。工事原価管理は経理や受注後の課題ではなく、見積から現場の管理、そして経営の最前線の課題です。
出典:日本建設業連合会「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状」2025年12月版
出典:総合資格navi「建設資材・労務単価高騰の実際(2025年12月版)」
1. 見積単価のズレが利益を消す3つのパターン
本来あるべき利益が消えてしまう原因は、価格高騰そのものではありません。価格高騰への対応が遅れ、原価と見積単価がずれることで利益が失われていくのです。
(1)見積後の資材価格高騰への対応遅れ
「利益が出るはずの見積を作っていた。しかし、着工後に予想以上に仕入れ単価が上がった」──こういう状況は少なくないはず。毎月のように価格変動がある現在、工期が長い案件ほど、見積時と完工直前では価格差が大きくなります。受注後の価格調整ができないと、その価格差がそのまま利益の消失につながります。
特に問題になるのは、価格変動を把握していないケースです。建設資材物価指数(2025年11月)は建設総合の全国平均143.9(2015年=100)と12カ月連続で上昇しています。定期的な価格チェックを行っていないと気づいたときには取り返しのつかない差額が生じているケースがあります。
出典:(一財)建設物価調査会「建設資材物価指数」(2025年11月)
参考記事:資材価格高騰の時代を乗り切る~資材調達と工事原価管理による課題解決~
(2)古い資材マスタをそのまま使い続けるリスク
古い資材単価のまま見積を出し続けると、じわじわと市場価格との乖離が積み重なっていきます。「単価表を最後に更新したのがいつか分からない」という状態はありえません。
資材によっては1年間で価格が10〜20%以上動くものもあります。「なんとなく以前と同じ金額で出している」という状態は、利益を少しずつ削り続けているのと同じです。資材マスタは生きた情報にしておく必要があります。更新を後回しにするコストは、思っている以上に大きいのです。
(3)複数担当者によるバラバラな原価管理の弊害
担当者ごとの見積基準が異なる会社もあります。結果として「Aさんの見積は利益が出るのに、Bさんの見積は赤字になりやすい」という状態も生じます。調べてみると、使っている資材マスタが担当者ごとに別々だった、というケースもあります。
さらに厄介なことに、この問題は価格交渉にも影響します。会社として統一された単価根拠を持っていなければ、「なぜこの金額なのか」と聞かれたときに答えづらくなります。感覚と経験だけで作られた見積は値引き交渉に弱く、会社としての信頼性を損なうリスクもあります。属人化した原価管理を解消することが、受注競争力の底上げにつながります。
関連記事:建設業の8割が直面する属人化リスクとDX解決策|業務標準化の7ステップ
<ここまでのポイント>
・見積後の価格上昇を放置すると、工期中に原価割れが発生する。
・古い資材マスタの使い回しは、気づかないうちに利益を削りとる。
・担当者ごとにバラバラな見積基準が会社の利益体質を弱める。
2. 価格変動リスクを可視化する「原価管理」の仕組み
工事原価管理の整備は、技術ではなくルールの問題と言えます。誰がいつ何を基準に更新するかが明確に決まっていれば、課題の多くは解決できるでしょう。
(1)資材マスタの更新ルールを整備する
「誰かが気づいたときに更新する」という運用では、結果として更新されないまま放置されがちです。まず必要なのは、「いつ・誰が・何を基準に更新するか」というルールを明文化することです。
たとえば「毎月第1営業日に担当者が建設資材物価指数を確認し、主要資材の単価を見直す」というルールがあるだけで、更新の抜け漏れを大幅に防げます。価格変動が大きい鋼材・配管材・電線などは月次確認を標準にすることが望ましく、ルールが明文化されていれば担当者が変わっても同じ基準で管理できます。
(2)建設物価・市場価格との連携で最新単価を反映
(一財)建設物価調査会が公表する「建設資材物価指数」は、資材マスタの更新タイミングを判断する外部基準として活用できます。全国・地域別・資材別に整理されており、「先月から何%上がったか」を客観的に把握するうえで有用かつ利便性の高いデータです。
さらに、建設物価との連携機能を持つ見積システムを導入することで、最新の市場単価をシステム内に自動反映させる運用が可能になります。「更新を忘れていた」「どの単価が古いか分からない」という問題や入力ミスなどがなくなり、少ない労力で常に資材マスタを最新に近い状態にできます。
(3)見積ごとに単価の根拠を記録・比較する
見積提出もしくは受注後に「なぜこの単価を使ったのか」が分からなくなる、という経験はないでしょうか。実行予算と実際の仕入れ単価を完工後に比較しようとしても、記録がなければ、差分の原因を特定できません。
見積ごとに使用した単価とその根拠(参照した物価指数・仕入先・仕入時期など)をデータとして残しておくことで、「あの現場では鋼材をいくらで積算したか」「実際の仕入れとどれだけ差があったか」を後から確認できます。こうした積み重ねが次の見積精度の向上につながり、「積算ノウハウ」として蓄積されます。
関連記事:【12月施行!改正法「標準労務費」の概要】法対応で利益を守る実務対策
<ここまでのポイント>
・「気づいたときにやる」ではなく、更新ルールを明文化して属人化を防ぐ
・建設物価指数を外部基準として活用し、更新タイミングを客観的に判断する
・見積ごとに単価の根拠を記録することで、会社全体のノウハウとして蓄積できる
3. 「勝てる見積」を作るための実践フロー
「勝てる見積」とは、安い見積のことではありません。客観的な根拠をもって「利益を確保できる見積」です。
(1)受注前に原価割れリスクを事前チェック
見積を提出する前に「最新の市場単価で計算し直したとき、この金額で利益が出るか」を確認するひと手間で、赤字を未然に防げます。特に工期が半年を超える案件では、資材価格がさらに上昇するリスクをある程度バッファとして見込んで単価を設定することが重要です。
「強気な受注金額で失注するより、根拠のある金額で勝ちにいく」という発想の転換が求められます。そして、受注後に赤字に気づくよりも、受注前に「この案件は利益が出るか」を判断できる習慣や体制が、その会社の利益を支えます。事前チェックを標準フローに組み込むことで、完工後に後悔する状況を減らせます。
(2)価格変動を発注者への価格交渉の根拠にする
2025年12月12日に全面施行された改正建設業法(第三次担い手3法)では、資材価格高騰リスクの契約書への記載、および変更協議における誠実対応義務が新設されました。「資材が上がったから金額を見直したい」という交渉を、法的根拠を持って行えるようになっています。
建設物価指数のデータがあれば、「市場単価がこれだけ上がっている」という客観的な根拠を発注者に示せます。「他社はもっと安い」と言われたときも、データがあれば冷静に対応できます。感覚の交渉から根拠のある交渉へ。これが価格交渉の基本です。
出典:国土交通省「改正建設業法に基づく『労務費の基準』について」(2025年12月12日施行)
関連記事:改正建設業法「労務費の標準」義務化!DXで法対応と経営力底上げ
(3)過去見積との比較で精度を継続改善
完工した工事の「見積時の単価」と「実際の仕入れ単価」を比較していない会社は、意外と多いようですが、この振り返りは非常に有効で見積精度を高める確実な方法のひとつです。
たとえば「配管材は見積より高くなりやすい」「電線はほぼ見積通りに収まる」──そういった傾向が蓄積されることで、次回以降の見積に活かせる自社独自のノウハウが生まれます。振り返りを仕組み化し、蓄積することで、個人の経験に頼らない見積体制が整います。
関連記事:【改正建設業法】標準労務費、工期適正化対応を「競争力」に変えるロードマップ
<ここまでのポイント>
・受注前の原価割れリスクのチェックが、後悔しない受注判断につながる
・改正建設業法を背景に、データを根拠にした価格交渉ができるようになる
・完工後の見積との振り返りを仕組み化することで、会社の積算力が継続的に高まる
4. 今から始める原価管理の整備ステップ
積算見積や工事原価管理のデジタル化は、目的ではなく手段です。ボトルネックを特定せずにシステムを導入しても、課題解決にはつながらない可能性があります。
(1)現状の原価管理方法を棚卸しする
「問題があるのは分かっているが、何から手をつければいいか分からない」──そういった声もよく聞きます。まずは自社の現状を正直に棚卸しすることから始めましょう。以下の問いに答えてみてください。
□ 資材マスタは誰が管理しており、最後に更新したのはいつか
□ 担当者ごとに異なる単価を使っていないか
□ 見積ごとに使用した単価と根拠を記録しているか
□ 完工後に見積単価と実際の仕入れ単価を比較したことがあるか
「更新ルールがない」「担当者が複数いて管理がバラバラ」「記録が残っていない」──どれか一つでも当てはまるなら、原価管理の整備に着手する十分な理由があります。課題を特定してから対策を打つことが、効率的な改善の第一歩です。
(2)デジタル化で資材マスタを一元管理
ExcelやPDFでバラバラに管理されている資材マスタを、全社で共有できる一元管理の仕組みに移行することが有効です。クラウド型の見積システムや基幹システムを活用することで、誰でも同じ最新の単価を参照できる環境が整います。デジタル化による一元管理で、以下のようなメリットが考えられます。
・更新した単価が即座に全担当者に反映される
・過去の単価履歴を追跡できる
・見積ごとに使用した単価のバージョン管理が可能になる
・外部データ(建設物価指数など)との連携が容易になる ※自動化できればベター
(3)見積システムとの連携で属人化を解消
積算見積システムとの連携で業務効率がアップします。資材マスタのデジタル化によって手動で単価を転記する手間がなくなり、転記ミスのリスクも排除できます。さらに、見積→実行予算→原価管理の一気通貫フローが整備されることで、受注時の赤字と着工後の赤字、2つのリスクをコントロールしやすくなります。
関連記事:資材価格高騰の時代を乗り切る~資材調達と工事原価管理による課題解決~
<ここまでのポイント>
・まずチェックリストで自社の現状を棚卸しし、課題を特定する
・資材マスタのデジタル化・一元管理で、属人化と更新漏れを防ぐ
・見積システムとの連携で転記ゼロを実現し、原価割れを未然に防ぐ
まとめ──原価管理の精度が利益率を決める
資材価格の変動が続くなか、「見積時点の単価」と「実際の仕入れ単価」のズレを放置することは、そのまま利益の損失につながります。資材マスタを常に最新の状態に保ち、見積ごとに価格変動リスクを可視化することが、利益を守る第一歩です。
さて、進行中の工事について「見積時の単価と現在の市場単価の差」をすぐに答えられますか。答えられないようなら、そこが変えるべき最初のポイントです。単価に根拠を持つことで、価格交渉を主導できるようになります。
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