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 「工事が終わってから赤字と気づいた」──建設・設備業界ではよく聞かれる話ですが、赤字は完工後に発生する訳ではありません。実際には、工期中には見えていなかっただけで、工事中に収支の状況がわかるしくみがないことが原因です。

 「月次報告が遅いから仕方ない」と片付けてしまうと、問題の本質を見誤ります。改正建設業法による業界再編が進む今、完工後に赤字が発覚する根本的な原因を整理し、リアルタイム工事原価管理を実現するための具体的なステップを解説します。

【現状把握】なぜ「完工後赤字」はなくならないのか
1. 完工後に赤字が発覚する3つの根本原因
 (1)月次締め後にしか収支が分からない構造的問題
 (2)追加工事の請求漏れと原価計上タイミングのズレ
 (3)改正法施行前の契約工事における労務費の原価割れ
2. 改正建設業法が「原価管理の見直し」を後押しする理由
 (1)標準労務費義務化で実行予算の精度が経営を左右する
 (2)経営改善できた会社とできなかった会社の分岐点
3. リアルタイム原価管理を実現する3ステップ
 (1)工事原価を可視化する仕組みをつくる
 (2)実行予算との差異をリアルタイムで把握する
 (3)スピーディに打ち手を選び赤字を回避する
4. リアルタイム管理がもたらす3つの経営効果
 (1)追加工事の請求機会を逃さない
 (2)資金繰り予測の精度が向上する
 (3)受注判断をスピーディかつ的確に行える
【まとめ】「見えない赤字」を「見える利益」に変える

【現状把握】なぜ「完工後赤字」はなくならないのか

 建設・設備業界で「完工後赤字」が繰り返される背景には、構造的な問題があります。
さて、資材費高騰に加え、公共工事設計労務単価も2021年比+22.9%(令和7年度時点)と大幅に上昇し、令和8年度(2026年3月12日適用)には全国加重平均25,834円と初めて25,000円を超えました。

 資材費も労務費も上昇しているにもかかわらず、収支の把握が月次報告頼みのままでは、赤字を把握した時には後の祭りになってしまいます。赤字の「発覚」を「防止・対策」に変えるため、工事の進行中にリアルタイムで原価を把握する仕組みが不可欠です。

出典:日本建設業連合会「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状」2025年12月版

出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」2026年2月17日発表

1. 完工後に赤字が発覚する3つの根本原因

 完工後赤字を生み出しているのは、管理の怠慢ではなく、管理の構造です。仕組みが変わらない限り、個人の努力では防げません。

(1)月次締め後にしか収支が分からない構造的問題

 税理士からの月次報告は月締めから1〜1.5カ月後が多いと思います。つまり、月次報告で工事ごとの収支を把握しようとすると、5月に発生した原価割れがわかるのは6月下旬から7月頃になります。短めの工期であれば、その時には完工していることもありますよね。「赤字は後から知るもの」という構造が変わらない限り、完工後赤字はなくならないでしょう。工事中に発生する赤字をリカバリーできるのは、工事が進行している間だけです。

関連記事:資材価格高騰の時代を乗り切る~資材調達と工事原価管理による課題解決~

(2)追加工事の請求漏れと原価計上タイミングのズレ

 これもよくある話だと思いますが、現場で追加工事・変更工事を引き受けることがあります。対応すること自体は問題ないのですが、口頭だけで決まったために適正な料金を提示できなかったり、請求するタイミングを逃してしまったりすると、追加コストは自社の負担になります。

 工事内容の変更と原価・請求を連動させない仕組みがないと、この問題は繰り返されるでしょう。追加が入った瞬間に、原価も請求フラグも立てられるのが理想です。

(3)改正法施行前の契約工事における労務費の原価割れ

 これまでも触れてきましたが、改正建設業法では、標準労務費を著しく下回る見積の依頼・提出が原則禁止となりました(2025年12月12日全面施行)。しかし、施行前に契約し2025年4月以降に着工した工事は要注意です。旧基準の労務費で契約していた場合、実際の賃金水準との差額がそのまま原価割れの要因になります。

 まずは工事台帳を確認し、現在進行中の案件の中に旧基準で見積・契約した工事が存在しないかを探しましょう。該当する工事があれば、原価実態を早急に把握することが必要です。

出典:国土交通省「改正建設業法に基づく『労務費の基準』について」(2025年12月12日施行)

関連記事:改正建設業法「労務費の標準」義務化!DXで法対応と経営力底上げ

2. 改正建設業法が「原価管理の見直し」を後押しする理由

 法改正を「コスト負担」と捉えるか「経営改善のチャンス」と捉えるかで、5年後の会社の姿が変わってくるでしょう。

(1)標準労務費義務化で実行予算の精度が経営を左右する

 改正建設業法の施行により、適正な労務費を見積・実行予算に組み込むことが建設・設備業者の標準となりました。前述の通り令和8年度の労務単価は初めて25,000円を超えており、この水準を実行予算に正確に組み込めていない会社は、工事を進めるたびに実際の労務コストが予算を超えていく状態に陥ります。

出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」2026年2月17日発表

※標準労務費の基準値:2026年3月現在13職種公表済み。残る12職種(内装・鉄骨等)は2026年春〜夏に追加公表予定。
出典:日経クロステック 2025年12月 / 日経アーキテクチュア 2026年2月

関連記事:【12月施行!改正法「標準労務費」の概要】法対応で利益を守る実務対策

(2)経営改善できた会社とできなかった会社の分岐点

 改正建設業法は、適正な取引を行っている会社にとっては追い風になります。「標準労務費を根拠に価格交渉ができる」「法令遵守を証明できる」ことで、取引先からの信頼を高め、受注継続・受注拡大につながります。 「建設Gメン」制度のスタートにより、遵守状況のチェックが現場レベルで行われるようになった今、数字を示せる会社と示せない会社の差はますます広がるでしょう。工事ごとの原価や収支を把握できているかどうかで明暗が分かれる可能性があります。

関連記事:【改正建設業法】標準労務費、工期適正化対応を「競争力」に変えるロードマップ

3. リアルタイム原価管理を実現する3ステップ

 工事原価の可視化により、工事ごとの収支のリアルタイム把握を実現し、スピーディな打ち手で赤字を回避する──この流れを3つのステップで整備できます。

(1)工事原価を可視化する仕組みをつくる

 リアルタイム管理と言っても日々の業務としてはシンプルで、発生したコストを入力するだけで、工事の結果をリアルタイムに把握できるようになります。事務所に戻ってから入力する運用ですと、遅延や入力漏れが発生しやすいので、スマートフォンやタブレットから入力できる環境を整えると、原価管理の精度は格段に上がります。さらに、現場管理者でなくても代理入力できる設計にしておくと、一人に負担が集中することも防げます。

 工事原価として管理すべき項目は以下の4つです。日々の労務費や外注費などのコストを当日中に入力する流れが定着すると、いつでも前日までの工事原価と収支を把握できるようになります。工事原価の可視化はここから始まります。

<主な工事原価の項目>
・材料費の発注・受領
・労務費の実績(職種別・人工数)
・外注費の発生
・経費の支払い

(2)実行予算との差異をリアルタイムで把握する

 次に、原価の実績を実行予算と比較するしくみが必要です。自動化されていると見落としがなくなります。実行予算との差異をリアルタイムで把握できれば、問題が小さいうちに対策を打てます。

 ここで大切なのは、差異の情報を「一人だけが見ている」状態にしないことです。経営者・工事担当者・経理担当者が同じ数字を共有できてこそ、組織として速やかに動けます。情報共有の仕組みが、対策の遅れを防ぎます。

 工事原価管理を開けば、全工事の予算対比を把握できる状態が理想です。各工事の原価や収支がどのような状態か一目でわかれば、スピーディな打ち手を選べるようになります。

(3)スピーディに打ち手を選び赤字を回避する

 コストの変動や実行予算との差異を可視化するしくみがあれば、赤字は必ず発見できます。そして、赤字回避には以下のような対策が考えられますが、タイミングが早いほど選択肢が多くなります。

<赤字回避の対策例>
・材料の調達先を変更し、仕入れコストを下げる
・追加コストの発生原因を発注者と協議し、追加請求の根拠を整える
・残工事の作業手順を見直してコストを圧縮する
・完工前に発注者へ変更協議を申し入れ、契約金額の見直しを交渉する

 完工後では、これらの手は打てません。工事原価の可視化によって対策できる時間を確保することが、赤字回避の本質的な課題です。

関連記事:設備業界に迫るデジタル格差の現状分析|淘汰リスクと対策を考察

 原価管理システムは改正法対応や業務の効率化だけでなく、利益を生むための投資でもあります。赤字工事を防止できると考えれば、導入コストの意味も変わってきます。

(1)追加工事の請求機会を逃さない

 リアルタイムの原価把握がシステム化されていれば、追加工事発生と同時にそのコストがシステムに反映されます。「追加が入った=原価が上がった=請求すべき根拠がある」という流れが自然に生まれ、請求漏れを防止でき、価格交渉の根拠としても役立ちます。

(2)資金繰り予測の精度が向上する

 工事原価をリアルタイムで把握できると、「今月いくらの支払いが発生するか」「来月の入金はいつ・いくら入るか」という資金繰りの見通しが立てやすくなります。複数工事を並行して進めている場合でも、全工事の収支を一覧で確認できる状態があれば、資金ショートのリスクを事前に察知できます。

 また、これらの情報は金融機関への説明資料としても活用できます。今期の工事収支の見込みを根拠として示せることが、融資相談や返済計画の交渉を有利に進める力になります。

(3)受注判断をスピーディかつ的確に行える

 進行中の工事の原価状況と資金繰りについて的確な見通しがたっていれば、新規案件の受注判断も速くなります。「この工事を受けても大丈夫か」という判断を、経験と勘ではなく数字に基づいて下せるようになります。

 無理な受注は、短期的には売上を増やしますが、原価割れや資金繰り悪化につながります。受けるべき案件と受けるべきでない案件を、合理的な根拠を持って判断できることが安定した経営の基本です。リアルタイム原価管理はそのための経営インフラです。

<ここまでのポイント>
・追加工事の原価がリアルタイムで反映されることで、請求漏れを防ぐ
・工事原価の可視化が、資金繰り予測の精度を高める
・経営数字を持つ会社は、受注判断を速くかつ的確に下せるようになる

「見えない赤字」を「見える利益」に変える

 どれだけ精度の高い見積で受注しても、受注後の工事原価管理がいい加減だと、赤字発生のリスクはなくなりません。ここで解説した3ステップが機能してはじめて、赤字を防げるようになります。

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