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 改正建設業法によって標準労務費が導入され、どの会社からも同じような見積が出されたら、発注者は何を基準に発注先を決めるのか-。見積で競合との差別化ができなくなることで、受注量の減少を懸念している方もいるかもしれません。実際、見積金額がほぼ同じであれば、過去の実績や人間関係が判断材料になる可能性があり、施工力や技術には自信があっても営業が苦手だったりすると、不安になるのは当然です。

 自社の技術力やノウハウを活かして見積の差別化ができれば、こうした不安を解決できるのではないでしょうか。それを実現するのが、自社歩掛を活用した見積です。業界全体の見積標準化を乗り越えて、競合との差別化を図る手法を解説します。

目次
-改正建設業法で、建設業の見積はどう変わる?
(1)改正建設業による労務費や歩掛の標準化の影響
(2)見積の差別化が困難になる時代にどう挑むか
-「自社歩掛」という武器 自社の技術力とノウハウで差別化
(1)自社歩掛の定義と標準歩掛との違い
(2)自社歩掛を導入するメリット
(3)実績データをもとにした自社歩掛の作成方法
(4)発注者を説得する説明資料とエビデンスの示し方
-差別化のポイントは「見積の中身」と「生産性の高さ」

改正建設業法で、建設業の見積はどう変わる?

 改正建設業法により、公共・民間を問わず「標準労務費」が導入されます。施工の手間賃にあたる標準労務費は、積算基準の歩掛と公共工事の設計労務単価が根拠となっており、見積における労務費の標準化が進みます。見積内容に差異がつきづらくなるため、困惑している営業・見積担当者様も多いのではないでしょうか。

改正建設業による労務費や歩掛の標準化の影響

 2024年からの改正建設業法施行により、建設業の商習慣は大きく変革しています。そのひとつが標準労務費の導入です。働く人の賃金を適正な水準に保ち、下請業者の処遇を改善することを目的としていますが、標準労務費の導入により、見積作成プロセスは大きく変化すると考えられます。

 自社の基準で算出していた労務費が、国が定める標準労務費に統一されることで、見積の均質化が進みます。労務費削減を前提とするダンピングを抑止し、公正な競争環境の構築に役立つ一方、見積における差別化が難しくなるという課題を生み出しています。

 公共工事から建築業界全体に普及させる狙いがあり、民間工事にも波及していくでしょう。民間工事においては発注者との関係性や実績を基に、柔軟な価格交渉が可能でした。しかし、標準労務費を基準とした見積が求められるようになると、適正価格での受注機会は増える一方、そうした調整は難しくなり、発注者の求めに応じた値下げで成り立っていた受注は減少する可能性があります。

 改正建設業法により、建設業界は「価格競争」から「付加価値競争」に転換しつつあるという見方もできます。単なる法改正ではなく、改正建設業法の枠組みの中で、いかに自社の競争力を維持・向上させるかという視点で、経営戦略を見直すべきなのではないでしょうか。

見積の差別化が困難になる時代にどう挑むか

 標準労務費の導入によって、技術力や施工力の違いを見積の価格面に反映させづらくなります。改正建設業法の趣旨を踏まえたうえで、新しい見積手法を模索する必要があります。

 改正建設業法の最終的な狙いは建設業界全体の技術者の処遇改善とそれを支える生産性向上です。適正な労務費を確保しつつ、より効率的な施工を実現することで、社会的な課題である担い手不足への打ち手としたい考えがあります。表面的には見積作成に関する規制を増やす施策と捉えがちですが、その背景には施策に対応することで建設業者が、生産性向上に取り組むことが期待されています。

 その鍵となるのが「自社歩掛」の活用です。新工法や機械導入などの根拠が説明できれば、歩掛を下げることは認められています。自社歩掛は単なる見積手法ではなく、自社の技術力とノウハウを対外的にアピールすることができます。自社歩掛を活用することで「技術力の高い会社」「信頼できる施工会社」というブランドイメージを構築できます。さらに継続的に活用し、その精度を高めていくことで、生産性が向上していきます。 自社歩掛にメリットも多い代わり、自社の技術力、施工力、ノウハウを正確に把握し、それを数値化して発注者や建設Gメンに伝える必要があります。自社歩掛のメリットや作成のポイントなどを解説していきます。

<ここまでのポイント>
・標準労務費の導入により見積の均質化が進行していくと予測される。
・価格競争から付加価値競争への転換が求められている
・公共工事から民間工事へと標準化の波を波及させることが狙い。

「自社歩掛」という武器 自社の技術力とノウハウで差別化

(1)自社歩掛の定義と標準歩掛との違い

 標準歩掛と自社歩掛の最大の違いは、積算根拠となるデータです。
標準歩掛が一般的な施工条件を前提とした、業界全体の平均的な数値を基準としているのに対し、自社歩掛は、自社の実績データや技術力、施工ノウハウに基づいて独自に算出します。すなわち、自社歩掛は自社の過去の施工実績、施工者のスキルレベル、使用する機材の性能、独自の施工方法などを総合的に勘案して算出されるものであり、自社の強みや特徴を数値化したものと言えます。

 それに対して、標準歩掛は統計上の平均値に基づいているとしても、自社の特性に合っているとは限りません。標準歩掛の想定よりも技術力が高い場合は標準歩掛よりも少ないコストで工事を終えられますが、得意分野ではない工事などでは見積よりも工数がかかってしまい、赤字になるリスクもあります。標準歩掛を用いて見積を作成する際は、標準歩掛と自社歩掛のギャップを見積に反映させる必要があります。

(2)自社歩掛を導入するメリット

 自社歩掛を取り入れるメリットとして、一番に挙げられるのは自社の技術力を反映した見積が作成できる点です。高い技術力を持つ会社が、標準歩掛よりも効率的な施工ができるわけですから、その分をコストダウンや品質向上に充てられます。苦手分野の工事でも、前述のようなリスクを回避できます。

 自社歩掛は、具体的な実績データに基づいているため、発注者に対して積算の根拠を説明しやすくなります。発注者の理解と信頼を得やすくなり、改正建設業法の目的のひとつである「適正な価格での発注」への合意を得やすくなります。さらに自社歩掛は、会社の強みや技術的な特性をアピールする材料にもなり、技術力による他社との差別化や、自社にあった仕事を受注しやすくなるなどの効果も期待できます。

(3)実績データをもとにした自社歩掛の作成方法

大まかですが、自社歩掛の作成のポイントを解説します。

①実績データから自社の施工効率を算出する
過去の施工実績から作業時間、使用材料、投入人員などのデータを収集します。同種の工事について複数のデータを分析し、自社の平均的な施工効率を算出します。工事原価管理や工事日報などのデータを組み合わせて活用すると、効率よく実績データを集めることができます。

<自社歩掛の算出手順>
・過去の施工実績から作業時間、作業量、人工数のデータを収集します。
・複数の同じ工種のデータを集積します。
・以下の計算式で単位当たりの人工数=「歩掛」を算出できます。
    [ 作業時間×人工数/作業量 ]

当社の工事原価管理システム「二の丸EXv2」から、基礎的なデータを簡単に収集できます。
[二の丸EXv2]設備業向け工事原価管理システム

②工事ごとの条件の差異に注意!
施工効率を算出する際、工事ごとの条件の違いを考慮することが重要です。工事の難易度、担当した施工者のスキルレベル、使用機材や工具の性能が歩掛を左右します。たとえば、熟練者と新人では作業効率が大きく異なりますので、施工者をスキルレベル別に分類し、歩掛を設定することも必要です。

③自社独自の技術やノウハウを加味する
特殊な機械の使用による作業時間の短縮や独自の工程管理など、自社独自の施工方法や工夫によって作業効率が向上している場合はこれも数値化します。

(4)発注者を説得する説明資料とエビデンスの示し方

 見積作成に自社歩掛を使用するには、自社歩掛の妥当性や合理的な計算に基づくものであることを、発注者に納得してもらわなければなりません。そのためには、自社歩掛の考え方や根拠を説明する必要があります。過去の施工実績のデータ、技術者の資格や経験年数、使用機材等の仕様書、独自の施工方法などを説明する資料を整理し、提供するとよいでしょう。

 標準歩掛による見積と自社歩掛による見積を比較し、両者の差分や根拠を示せると、自社の技術的優位性や生産性の高さを具体的に説明できるようになります。過去の類似工事での実績データや、発注者からの評価書なども有効なエビデンスとなります。

<ここまでのポイント>
・自社の実績と技術力を数値化した自社歩掛はで、他社との差別化の武器となる
・自社の特性を活かした自社歩掛の見積でコストダウンや品質向上、リスク回避できる
・工事原価管理のデータを活用すれば実績データの収集・分析が容易になる
・説得力のあるエビデンスで、発注者の理解と信頼を獲得できる

差別化のポイントは「見積の中身」と「生産性の高さ」

 改正建設業法による標準労務費の導入で、建設業界は大きな転換点を迎えています。従来の価格競争からの脱却を迫られるようになると言っても過言ではないでしょう。改正法後の見積の差別化を実現するのは、見積書の数字の背景にある「技術力」と「生産性」なのです。

 自社の技術力やノウハウを「自社歩掛」として数値化し、見積に反映させることで、競合との明確な差別化を実現できます。発注者にとっても、単なる価格比較ではなく、技術的な根拠に基づいた適正価格での発注が可能になり、双方にメリットをもたらします。

 自社歩掛の導入には、実績データの蓄積と分析、技術力の数値化など、さまざまな準備は必要ですが、工事原価管理や工事日報などのデジタル化ができていれば、かなり省力化できます。それらのデータを発注者への説明資料にも流用できます。

 自社歩掛によって「技術力の高い信頼できる施工会社」というブランドイメージを構築できれば、一番に声をかけてもらえるようになり、競争優位性を確保できるようになるでしょう。

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