1. HOME
  2. ブログ
  3. 業務改善・効率化
  4. 【12月施行!改正法「標準労務費」の概要】法対応で利益を守る実務対策

BLOG

ブログ

 令和7年12月12日、改正建設業法が全面施行されます。職種別・地域別の「労務費の標準」が公表され、見積作成の根拠がより明確になります。一方、この基準を著しく下回る見積りは法律で禁止され、価格交渉は厳格化されます。12月公表の標準労務費の特徴と、設備業が今すぐ取り組むべき対策を解説します。

目次
-12月施行!改正法「標準労務費」の概要
・法改正の背景 ― 担い手不足と長時間労働
・12月2日公表「労務費の標準」の3つの特徴
・令和7年12月12日施行の3つの規制
・標準請負約款の改正で新設された2つの制度
-施行後も残る実務課題と「知る・備える・変わる」対応策
・施行後も残る3つの実務課題
・実務対応「知る・備える・変わる」の具体策
-DX・デジタル化で利益を守る「見える化・標準化・赤字防止」
・【見える化】工事原価管理システムで原価の変動状況を可視化
・【標準化】 積算見積システムで見積の法対応を徹底
・【赤字防止】 実行予算の活用で赤字案件をリアルタイムで早期検知する
-改正法は業界の転換点。法対応から経営改善へ

12月施行!改正法「標準労務費」の概要

法改正の背景 ― 担い手不足と長時間労働

 建設技能者は平成9年の685万人から令和4年には479万人へと約3割減少し(出典:国土交通省「建設業及び建設工事従事者の現状」)、60歳以上が25.8%を占める一方、30歳未満はわずか11.7%という状況です(出典:総務省「労働力調査」令和4年)。

 建設業の平均年収は432万円と全産業平均508万円を上回っていますが(出典:国税庁「民間給与実態統計調査」令和4年分)、年間実労働時間は全産業平均より約340時間長く(出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」令和4年)、時間当たりの賃金水準は依然として低い状況です。

 建設業界では労務費で受注価格の調整が行われ、技能者に適正な賃金が届かない構造が続いてきました。加えて、近年の資材価格の高騰により、労務費へのしわ寄せはさらに深刻化しています。今回の法改正には、こうした構造的課題を解決する狙いがあります。

12月2日公表「労務費の標準」の3つの特徴

 中央建設業審議会(中建審)から12月2日に公表された「労務費の標準」は、従来の「公共工事設計労務単価」とは異なります。

特徴①:法的拘束力 ― 参考値から義務へ
 従来の公共工事設計労務単価は「参考値」でしたが、「労務費の標準」は基準を著しく下回る見積り・契約が法律で禁止され、違反した場合は指導・監督の対象となります。

特徴②:公共・民間の全工事が対象
 従来は公共工事のみが対象でしたが、新基準は民間工事も含む全ての建設工事に適用されます。

特徴③:単位施工量当たり労務費として提示

 「単位施工量当たり労務費(円/m、円/m²、円/個など)」の形で、歩掛を含む具体的な数値が示されます。

 設備業界では、電気設備工事(幹線設備、電灯コンセント設備、放送設備)、空調衛生工事(配管工事、ダクト工事、保温保冷工事)、管工事(給排水設備、ガス配管工事)の基準値が示される予定です。
労務費の基準値は以下の計算式に基づきます。

労務費の基準値 = 公共工事設計労務単価 × 適正な歩掛 × 必要な数量

 また、請負代金内訳書への記載項目も拡充され、労務費、材料費に加えて、法定福利費の事業主負担分、安全衛生経費、建退共掛金などの明示が求められます。

令和7年12月12日施行の3つの規制

 公表された「労務費の標準」を実効性あるものとするため、以下の3つの規制が12月12日から適用されます。

①著しく低い労務費等の禁止
 発注者は、労務費基準を著しく下回る見積依頼を禁止されます。違反者への、国土交通大臣による勧告・公表の権限が新設されました。対象は請負代金500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上)の工事です。

②原価割れ契約の禁止
 受注者は通常必要と認められる原価を下回る契約を結ぶことが禁止されます。技能者の賃金確保を目的とし、適正な労務費が担い手まで行き渡ることを担保します。

③工期ダンピング対策の強化
 著しく短い工期での契約締結が禁止されます。発注者だけでなく受注者も対象となり、双方に責任を課します。

標準請負約款の改正で新設された2つの制度

 中央建設業審議会は12月2日の総会で、建設工事標準請負契約約款の改正を審議・了承しました。今回の改正により、以下の2つの制度が新設されました。

①コミットメント条項 ― 「払うためにもらう」姿勢へ
 コミットメント条項は、契約当事者が任意で利用できる選択条項として新設されました。受注者は注文者に適正な労務費・賃金を下請けや技能者に支払うことを約束し、注文者は支払いに関する書類提出を要請できることを定めます。

パターンA:包括的コミットメント条項
 発注者・元請間の契約で、下請契約も含めてコミットメント導入を担保する条文です。元請が下請への支払い状況まで確認・報告する義務を負います。

パターンB:個別契約コミットメント条項
 発注者・元請間、元請・1次下請間など、個々の契約で労務費・賃金の適正支払いを約束する条文です。各契約段階で適正支払いを確認します。

実務対応:
・契約書への条項盛り込み
 下請業者との新規契約では、パターンBの個別契約型を導入
・支払い確認の仕組み構築
 下請業者から技能者への支払い実績を定期的に確認する体制整備 ・証拠書類の提出要請
 賃金台帳や振込記録などの提出を求める仕組み作り
・段階的導入
 まずは大型案件や長期契約からパターンAの包括型を試行導入

②資材高騰時の契約変更ルールの明確化
 民間約款、下請約款に資材高騰に伴う契約変更の規定が整備されました。以下の事象が発生した場合、受注者は契約変更を請求でき、協議の申し出を受けた者は誠実に協議に応じる義務が明記されます。

契約変更請求の要件:
・主要資材の供給の著しい減少
・資材価格の高騰
・その他、工期や請負代金に影響を及ぼす事象の発生

実務対応:
・契約時点での通知徹底
 工期6ヶ月以上の工事では、契約締結時に「価格変動のおそれ通知」を書面で行う
・変動事象の記録
 主要資材の価格推移、供給状況を月次で記録し、変動の証拠を確保
・協議申し入れのタイミング
 資材価格が契約時から10%以上変動した時点で速やかに協議を申し入れる
・価格転嫁の根拠資料整備
 公共工事設計労務単価の改定通知、材料価格の物価資料、仕入先からの値上げ通知書を保管
・誠実協議義務の活用
 発注者が協議を拒否する場合、「約款で誠実協議が義務付けられている」と説明

<ここまでのポイント>
・労務費が価格調整の対象となり、技能者に適正賃金が届かない構造が課題
・「労務費の標準」は法的拘束力を持ち、公共・民間の全工事に適用
・著しく低い労務費等と原価割れ契約の禁止、工期ダンピング対策
・標準請負約款改正でコミットメント条項と資材高騰時の契約変更ルール新設
・500万円以上の工事が勧告対象、基準を著しく下回る見積り・契約は違法

施行後も残る実務課題と「知る・備える・変わる」対応策

 12月の労務費の基準値公表後は、いよいよ実務対応が求められます。残る課題と主な対応策を解説します。
・基準値を参照した見積作成
・労務費等を内訳明示した見積書の提出
・価格変動通知制度の活用
・実行予算に基づく原価管理

施行後も残る3つの実務課題

法改正により状況は改善されますが、以下の課題は残ります。

課題①:現場条件による補正の説明責任
 基準値は「標準的な作業内容・施工条件」を前提としています。現場ごとの条件が異なるため、基準値からの乖離についての説明が必要です。自社歩掛で積算する場合は自社実績で算出するため、自社の歩掛データの根拠を示す必要があります。

課題②:500万円未満の工事への適用
 500万円未満の工事では、従来通りの価格交渉が続く可能性があります。小規模工事でも基準値を参照し、合理的な説明を用意することが有効です。

課題③:発注者側の理解に時間がかかる
 大手企業では法対応が進んでいますが、未だに「見積もりをたたくのは当たり前」という発注者も存在します。民間工事では、見積金額が上がった理由と根拠を説明できる資料を準備し、丁寧に対応する必要があります。

実務対応「知る・備える・変わる」の具体策

 改正法への対応は、段階的に進めることが重要です。まずは自社の見積単価と標準労務費を比較することから始めるとよいでしょう。

【第1段階:知る】基準値確認、契約対象工事の把握、約款改正内容の理解
 ・自社の主要工事分野の基準値を確認し、現在の見積り単価と比較する
 ・基準値との乖離がある場合、その理由(現場条件の違い、自社の歩掛など)を整理する
 ・請負代金500万円以上の工事の比率を確認し、勧告対象となる案件を把握する
 ・コミットメント条項の2パターンを理解し、自社に適した形式を選択する
 ・標準請負約款の改正内容(資材高騰時の契約変更ルール)を確認する

【第2段階:備える】積算システム、契約書改訂、価格変動通知様式の準備など
 ・労務費等を内訳明示した見積書を作成できる積算システムの導入・更新
 ・工事原価管理システムの整備(原価変動をリアルタイムで把握)
 ・実行予算の作成と管理のルール化
 ・下請業者との契約書にコミットメント条項を盛り込む(まずはパターンBから試行)
 ・契約時に価格変動のおそれを通知する書面様式を準備
 ・営業担当者・現場管理者への教育(改正法の内容、価格交渉での説明方法)

【第3段階:変わる】見積根拠の明示、交渉姿勢転換、業務プロセスの変革 
 ・基準値を参照しながら歩掛で適正に積算し、労務費等を内訳明示した見積書を提出
 ・「もらえないから払えない」ではなく「払うためにもらう」姿勢で臨む
 ・工期6ヶ月以上の工事では「価格変動のおそれ通知」を書面等で行う
 ・実行予算を作成し、原価変動をリアルタイムで把握して赤字案件を早期検知
 ・下請業者への適正な支払いを確実に行い、コミットメント条項に基づく確認手続きを徹底
 ・主要資材の価格を月次で記録し、10%以上変動時は速やかに協議申し入れ

<ここまでのポイント>
・現場条件の説明、500万円未満工事、発注者の理解が課題
・第1段階で基準値確認、第2段階で体制・しくみ整備、第3段階で業務改善

DX・デジタル化で利益を守る「見える化・標準化・赤字防止」

 改正法への対応は、単なる法令順守にとどまらず、経営体質を強化する機会でもあります。DX・デジタル化の取組は、法対応と利益確保を同時に実現します。

【見える化】工事原価管理システムで原価の変動状況を可視化

 改正法では「労務費の標準」を著しく下回る契約が禁止されます。工事原価管理システムを導入することで、案件ごとの予算と実績をリアルタイムで比較し、原価変動の兆候を早期に把握できます。資材価格の高騰や想定外の追加作業が発生した場合でも、早期に対策を講じられます。

[二の丸EXv2]設備業向け工事原価管理システム

【標準化】積算見積システムで見積の法対応を徹底

 積算見積システム導入により、基準値を参照しながら自社歩掛の使用が可能になります。また、労務費、材料費、法定福利費などの内訳を明示した見積書を標準化することで、発注者への説明責任を果たし、不当な値引き要求に対しても根拠を持って対応できるようになります。

[本丸EXv2]設備業向け工事積算見積システム

【赤字防止】実行予算の活用で赤字案件をリアルタイムで早期検知する

 実行予算を作成し、工事進行中に予算と実績を比較することで、受注後の赤字化を早期に検知できます。予算との乖離が生じた時点で発注者との協議や施工方法の見直しを行うことが重要です。実行予算と工事原価管理システムの連携で、完成時の利益を予測しながら工事を進めることができます。

[二の丸EXv2]設備業向け工事原価管理システム

<ここまでのポイント>
・DX・デジタル化は法対応と利益確保を同時に実現する手段
・工事原価管理システムで原価の変動をリアルタイムで可視化
・積算見積システムで「労務費の標準」に基づく見積を標準化
・実行予算の活用で赤字案件を早期検知し、対策を講じる

改正法は業界の転換点。法対応から経営改善へ

 令和7年12月の「労務費の標準」公表と改正建設業法の全面施行は、建設業界の転換点となるでしょう。「労務費は優先的に確保すべきもの」へと180度転換します。

 一気に変わらなくても、不当な値引き要求の減少は期待できます。同時に受注者側も「労務費は最優先で確保すべきもの」という意識改革と行動変容が求められます。

 法対応は、抜本的な経営改善のチャンスでもあります。工事原価管理システム、積算見積システム、実行予算管理といった原価管理体制のDX・デジタル化で、持続可能な経営基盤を構築できます。改正法に対応する「見える化・標準化」は、そのまま「赤字防止・利益確保」の仕組みになります。

 年明けから、改正法の総括と具体的な法対応を掘り下げた記事を予定しています。引き続き、改正法対応と経営改善に役立つ情報をお届けしてまいります。

出典一覧
総務省「労働力調査」令和4年
国税庁 民間給与実態統計調査 令和4年分
厚生労働省 毎月勤労統計調査 令和4年分結果速報

関連記事