1. HOME
  2. ブログ
  3. 法改正
  4. 改正建設業法 対応ガイド中小設備業が知っておくべき7つのポイント

BLOG

ブログ

 改正建設業法の施行により、建設業界の商習慣が大きく変わってきています。労務費の適正化、技術者配置ルールの変更、契約内容の見直しなど、多岐にわたる改正内容に戸惑う経営者も多いのではないでしょうか。改正建設業法対応のポイントを整理し、実務で活用できるチェックリストとともに、現場でよくある誤解と対応策を具体的に解説します。

目次
-改正建設業法 対応すべきポイント
-【チェックリスト】改正建設業法 7つの対応領域と注意点
 ① 労務費・賃金制度の見直し
 ② 資材価格変動への対応
 ③ 技術者配置ルールの変更
 ④ 特定建設業許可制度の見直し
 ⑤ 契約・見積制度の適正化
 ⑥ 働き方改革・週休2日への対応
 ⑦ 社内体制づくり、教育と記録管理のしくみ
-【事例で解説】現場でよくある誤解と対応ミス
 事例①監理技術者の専任が不要だと思っていたが、金額基準を誤認していた
 事例②資材価格が高騰しても、契約書に価格変更方法の設定がなかったため協議できなかった
 事例③下請業者に労務費を十分に反映せず、通報リスクが発生した
-今からでも間に合う!改正法対応の準備と社内体制づくり

改正建設業法 対応すべきポイント

 改正建設業法に限らず、法律の条文には難解な言い回しが多く、どのように対応すればいいかを理解しづらいです。改正法で定義された新基準に合わせて日々の業務フローや社内ルールを根本から見直し、体制を整備するためのポイントを解説します。

(1)ポイントは契約の適正化と透明性の向上

 対応すべきポイントのひとつが、契約の適正化と透明性の向上です。
 改正法の目的である建設労働者の処遇改善を実現するために、発注者や下請業者との間で透明性の高い取引が行われる環境を整える狙いがあります。多くの会社で、契約書式と見積書作成基準の全面的な見直しが必須となります。

 そして、契約書式は受注側と発注側で見るべきポイントが異なります。また、見積書において労務費、材料費、経費の区分を明確にし、それぞれの算定根拠を客観的に説明できるようにしておくことが求められます。

<契約書式を見直す際のポイント>

受注側発注側
労務費の内訳
資材価格変動に対する価格変更方法の設定
技術者配置に関する明確な規定
適正な労務費の確保
支払い条件の明確化

(2)業務フローと社内ルールの見直し

 契約書式、見積書作成基準が変わることで、既存の業務フローやルールから見直す必要が生じます。改正法の要求を満たす形で業務フローを見直した後、無理なく運用できるよう社内ルールを整備すると効率がよいです。

①業務フローの見直し
 改正法の要求を満たしているかの確認です。技術者の配置計画、労務費の算定方法、下請業者との契約プロセス、資材調達の価格変動対応などの業務手順について、「ずっとこうだったから」ではなく、明確な基準と手順を定めることが求められます。

②社内ルールの見直し
 改正建設業法 対応する業務フローを運用するために、管理職、現場責任者、事務担当者それぞれの役割分担を明確化します。必要な権限と責任を適切に配分することが重要です。

<ここまでのポイント>
・重点課題は契約の適正化と透明性向上
・契約書式と見積書基準の見直しが必要
・業務フローと社内ルールの根本的な変更が求められる

【チェックリスト】改正建設業法 7つの対応領域と注意点

 改正建設業法への対応を7つの領域に分け、具体的なチェックポイントを整理しました。

① 労務費・賃金制度の見直し

 改正建設業法では、労務費の透明化が重要なポイントであり、労務費の適正な確保と支払いが義務化されました。下請業者に対する適正な労務費の確保は、元請業者の法的義務として厳格に定められ、怠った場合は行政処分の対象となります。

チェックポイント:
□ 労務費の適正な算定基準を設定している
→ 職種別・技能レベル別の労務単価表を整備し、地域の実勢価格を反映させる
□ 下請業者への労務費支払いが適正に行われている
→ 下請契約時に労務費を明示し、支払い実績を記録・確認する体制を構築
□ 労務費の内訳を明確に記録・管理している
→ 基本給、諸手当、法定福利費を区分して記録し、監査に対応できる状態を維持
□ 賃金台帳の整備と適切な保管体制がある
→ 労働基準法に基づく賃金台帳を作成し、3年間の保存義務を確実に履行
□ 社会保険加入状況を確認する体制が整っている
→ 下請契約時に未加入の場合は契約解除する旨を明記、定期的に社会保険加入証明書を確認する

② 資材価格変動への対応

 急激な価格変動により下請業者が不当な損失を被ることがないよう、価格変動リスクの通知義務と契約後の価格変動に対する適切な対応が求められています。契約書に明記すべきスライド条項など、価格変動に対応する条項設定や価格協議の仕組みづくりが必要です。

チェックポイント:
□ 契約書にスライド条項などの価格変更の方法を適切に設定している
→ 物価変動率が一定基準(通常3〜5%)を超えた場合の価格調整条項を明記
□ 価格変動の基準となる指標を明確に定めている
→ 建設物価誌や積算資料等の公的指標を基準として契約書に明示
□ 資材調達先との価格協議体制が整っている
→ 主要資材について複数の調達先を確保し、定期的な価格情報の収集体制を構築
□ 価格変動リスクの分担方法を明文化している
→ 発注者・受注者間での価格変動リスクの負担割合を事前に取り決め
□ 変動幅の許容範囲と協議開始基準を設定している
→ 何%の変動で協議を開始するか、どの時点で価格調整するかを明確化

③ 技術者配置ルールの変更

 監理技術者の専任義務の対象工事や技術者の専任合理化など、技術者配置ルールが変更されました。一部は緩和されていますが、工事の規模や内容によって細かく規定されているため、正しく理解しておく必要があります。

チェックポイント:
□ 監理技術者の専任義務の対象工事を正確に把握している
→ 工事金額4,000万円以上(建築一式は6,000万円以上)で専任義務が発生することを確認
□ 技術者の配置計画を適切に策定・管理している
→ 工事開始前に技術者配置計画書を作成し、変更時は速やかに届出を実施
□ 技術者の資格要件を満たしているか確認している
→ 工事内容に応じた適切な資格(1級建築士、技術士等)を有する技術者を配置
□ 複数現場の兼任条件を正しく理解している
→ 兼任可能な工事の条件(同一場所、密接な関係等)を正確に把握
□ 技術者の配置状況を適切に記録・報告している
→ 配置技術者台帳を整備し、監督官庁の求めに応じて提出できる体制を構築

④ 特定建設業許可制度の見直し

 特定建設業許可の要件が見直されています。許可を受けていても、更新時に許可要件を満たしていないと更新できなくなるため、まずは要件の確認が必要です。

チェックポイント:
□ 許可要件の変更内容を把握している
→ 財産的基礎、技術的能力、適格性の各要件について最新の基準を確認
□ 財産的基礎の要件を満たしている
→ 欠損比率20%以下、流動比率75%以上、資本金2,000万円以上等の財務要件をクリア
□ 専任技術者の要件を確認している
→ 1級国家資格者または指定学科卒業後の実務経験年数を適切に満たしているか確認
□ 更新時期と必要書類を整理している
→ 5年ごとの更新手続きを見落とさないよう、スケジュール管理と書類準備を徹底
□ 営業所の体制が要件を満たしている
→ 専任技術者の常勤性、営業所としての独立性等の物理的要件を確認

⑤ 契約・見積制度の適正化

 契約書や見積書の記載内容について詳細に規定されました。労務費の内訳明示、適正な工期設定などが義務化されました。

チェックポイント:
□ 見積書の記載内容が法的要求を満たしている
→ 労務費、材料費、経費の区分を明示し、経費では建退共掛け金や法定福利費などの内訳を計上
□ 契約書の記載事項が適正に整備されている
→ 工事内容、工期、請負代金、支払条件等の必須記載事項を漏れなく明記
□ 変更契約の手続きを適切に定めている
→ 設計変更や追加工事が発生した場合の協議・承認プロセスを明文化
□ 支払い条件が適正に設定されている
→ 下請代金支払遅延防止法に基づく支払期限(完成後1ヶ月以内等)を遵守
□ 契約書類の保管体制が整っている
→ 契約書、設計図書、変更協議書等を整理・保管し、検査時に速やかに提出可能な状態を維持

⑥ 働き方改革・週休2日への対応

 2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用され、長時間労働の是正、休日の確保が義務化されました。4週8休(週休2日)を標準とした工程管理体制の推進、有給休暇の確実な取得、時間外労働の上限規制など、労働環境の改善が求められています。

チェックポイント:
□ 4週8休(週休2日)の実施体制を整備している
→ 4週4休以上の休日確保を基本とし、工程計画に休日を適切に組み込む
□ 労働時間管理システムが適切に運用されている
→ ICカードやアプリ等を活用した客観的な労働時間の把握・記録システムを導入
□ 有給休暇の取得促進策を実行している
→ 年5日以上の有給休暇取得義務を確実に履行するため、計画的な取得促進を実施
□ 時間外労働の上限規制に対応している
→ 月45時間、年360時間の上限を遵守し、特別条項についても適切に管理
□ 働き方改革に関する社内教育を実施している
→ 管理者向けに労働時間管理、従業員向けに休暇制度等について定期的な研修を実施

⑦ 社内体制づくり、教育と記録管理のしくみ

 これらはマストではありませんが、改正建設業法への対応を含むコンプライアンスに効果的な取り組みを挙げます。

チェックポイント:
□ 工事関係書類、労務管理書類、契約書類等の記録・書類の管理体制が整っている
□ 改正建設業法対応を含むコンプライアンス責任者を配置している
□ 定期的なコンプライアンス研修を実施し、周知徹底と理解度の確認を行う
□ コンプライアンス状況の定期的な点検と改善を行っている
□ 外部専門家との連携体制を構築している

<ここまでのポイント>
・労務費透明化と社会保険加入促進が義務化
・資材価格変動リスクへの契約対応が必須
・技術者配置ルールの正確な理解と管理が重要

【事例で解説】現場でよくある誤解と対応ミス

 改正建設業法対応に関する誤った認識や対応ミスについて、わかりやすい事例で解説します。

事例①発注者の要望に応えるため、短い工期で受注した

事例発注者が希望する工期がかなり短かったが、残業や休日出勤を増やし、一人当たりの労務費を抑えて職人を増やせば対応できそうだったので受注した。
背景無理な工期での契約が法令違反となることを理解せず、発注者の意向を優先する慣習に従って判断している。
適切な対応工期の設定にあたっては標準の工期設定を理解し、残業時間の抑制や休日確保などにも考慮する。

事例②資材価格が高騰しても、契約書に価格変更方法の記載がなかったため協議できなかった

事例着工後、資材価格が急騰したが、契約書にスライド条項などの価格変更の方法が設定されていなかったため、発注者が価格協議に応じてくれず、損失を被った。
背景価格変動対応条項の設定や協議に関する条項を記載が義務化されたことを知らなかった為、契約書で触れられていなかった。
適切な対応① 契約書に適切なスライド条項などの価格変更の方法を盛りこむ
②契約前に資材価格の変動リスクを詳細に分析し、変動幅の基準、協議開始の条件、リスク分担の方法を明確に定める
③発注者との間で合意する

事例③下請業者に労務費を十分に反映せず、通報リスクが発生した

事例下請け業者から労務費の適正な確保について交渉されたが、過去の契約を基準として断ったところ、監督官庁に通報された。
背景改正建設業法の労務費確保や社会保険加入義務についての理解が不足しており、労務費の算定基準も把握していなかった。
適切な対応下請け業者との契約締結にあたり、労務費の適正な算定を行い、賃金水準を確認する体制を整備することが必要。定期的に下請業者との協議の場を設け、労務費の適正性を継続的に確認する。

<ここまでのポイント>
・従来の商習慣に従って判断してはいけない
・改正法の基準に従って必要事項を契約書や見積書に明記する
・契約書や見積書に記載されたことを遵守する

今からでも間に合う!改正法対応の準備と社内体制づくり

 改正建設業法への対応は、労務費の適正化、資材価格変動への対応、技術者配置ルール、働き方改革など包括的な取り組みが求められます。個別に対応するより、全体を俯瞰して段階的にアプローチすると効果的に進められます。また、管理職・現場責任者・事務担当者など、それぞれの立場の社員が、改正法で何を求められるのかを理解する必要があります。会社全体で共通認識を持てるような研修や勉強会を実施すると効果的です。

 労務費の適正化や技術者配置の見直しなど、法的リスクの高い項目や対外的な影響するものを優先して対応することをお奨めします。社内ルールの標準化やデジタルを活用した記録管理のしくみづくりなど、中長期的な体制整備を行い、継続的な改善サイクルを確立するとよいでしょう。

 改正建設業法への対応は短期的には負荷になりますが、適切に対応することで、経営基盤の強化につながります。今からでも決して遅くありません。チェックリストを活用して、まずは現状の把握から始めましょう!

関連記事