中小の設備業では特定の担当者が積算見積を行っており、見積作成のノウハウを担当者の経験や勘に頼る、いわゆる「見積の属人化」が生じています。その結果、見積精度のバラつきや受注機会のロスなどの状況につながっています。
見積担当=経営者という会社も多く、夜遅くに会社に戻って見積を作成している社長は多いのではないでしょうか。その場合、見積の精度は担保されますが、「社長でないとわからない」が常態化し、社長の負荷は高まるばかりです。また、複数の見積担当がいる会社では、担当者ごとの見積基準の違いが利益率を左右し、受注後に赤字工事化するリスクがあります。
デジタル・AI活用によって「見積の属人化」を解消し、「誰でも同精度で見積もれる体制」への道筋を整理します。
目次
1. 見積の属人化はなぜ起きるのか
(1)「社長でないとわからない」が会社を弱くする
(2)マニュアルでは解決しない理由
2. 属人化が生む2つのリスク
(1)その人しかできないことで受注機会が減る
(2)誰が担当しても同じ精度で見積もれない
3. 「誰でも同精度で見積もれる」体制をつくるには
(1)標準化の起点は「自社の実績データ」にある
(2)デジタル化が手順を可視化し、基準を組織に埋め込む
4. 価格変動・法改正に見積の仕組みで対応する
(1)単価変動に対応できない見積の限界
(2)法改正対応を、見積業務の中で完結させる
5. 積み重なるデータが「勝てる見積」をつくる
(1)自社歩掛という競争力の源泉
(2)見積の標準化は、次の工程への橋渡し
まとめ 見積が変わる。現場が変わる。
見積の属人化はなぜ起きるのか
見積の属人化は「人の問題」ではありません。見積作成の手順や判断基準が、担当者個人に宿ってしまう、業務の構造の課題です。
(1)「社長でないとわからない」が会社を弱くする
中小の設備業では、見積担当=社長という会社も多いです。社長がすべての見積を担当すれば見積基準の統一は容易ですが、反面「社長でないとわからない」という状況になりがちで、社長不在時のチャンスロスや社員が主体的に動けなくなるリスクにつながります。これらは組織の脆弱性であり、人材育成を阻害します。
また、複数の見積担当がいる場合のリスクは、担当者ごとのバラつきです。それぞれが工事の種類ごとの拾い出しパターン、材料の歩掛の感覚、外注費の妥当性など、あらゆる判断基準が言語化されないまま、担当者の頭の中だけに存在します。各自が経験を通じて身につけた基準で見積を作成すると、見積内容や利益率には意外に大きな差異が生じます。
これらのリスクは、社長でも見積担当でも、見積基準や判断軸が個人に属することが原因です。その結果、繁忙期になると見積業務が停滞し、異動や退職が起きると会社全体の見積能力が一気に落ちます。
(2)マニュアルでは解決しない理由
属人化解消と言うと、マニュアルの整備を思い浮かべる方も多いと思いますが、見積業務の属人化解消はマニュアルだけでは難しいです。なぜなら、見積業務では、材料数の算出、歩掛の設定、経費など、工種や施工条件によってさまざまな判断基準があり、一定の手順を踏めば「適切な見積」を出せる訳ではありません。汎用的なマニュアルでは判断基準を網羅しきれず、更新も大変なため、かなり高い確率で形骸化してしまいます。
見積業務で必要なのは、ベテラン担当者の判断を言語化したマニュアルではなく、自社の実績から積み上がった「基準値」と、それを誰でも使える形で組み込んだシステムです。
関連記事:建設業の8割が直面する属人化リスクとDX解決策 業務標準化の7ステップ
<ここまでのポイント>
・見積の属人化は「人の問題」ではなく「手順と基準が人に宿っている構造の問題」
・見積担当一人への依存は2つのリスクを生む
・マニュアルではなく、実績から積み上がった基準値のシステム化が必要
属人化が生む2つのリスク
特定の個人への依存がもたらすリスクは、大きく2つです。受注機会の損失と、見積精度のバラつき——どちらも会社の利益に直結する問題です。
(1)その人しかできないことで受注機会が減る
急ぎの見積依頼が来たときに見積担当が他業務に忙殺されていれば、提出期限に間に合わず、受注機会の損失につながります。代理対応できる人がいても、精度の低い見積になってしまうと、赤字受注になるリスクがあります。
見積スキルを持つ人の退職や長期不在も深刻です。設備業の就業者数が、1997年の685万人から2024年には477万人へと約30%減少する中で、ベテラン中心の見積担当は特に高齢化が進んでいると言えます。見積の属人化を放置するリスクは今後さらに高まります。
出典: 国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」
関連記事:設備業の職人高齢化対策 デジタル活用で担い手不足を解消する方法
(2)誰が担当しても同じ精度で見積もれない
担当者ごとに見積の精度にばらつきがあるということは、受注した時点で一定の利益を確保できている保証がないということです。資材の数量、単価、歩掛の設定——小さな違いが着工後の原価割れリスクとなります。完工後に赤字工事の理由を追いかけても、その工事の損失は戻りません。
見積基準を「担当者の知見」に依存する限り、バラつきはなくなりません。「誰が担当しても同じ精度で見積もれる」体制をつくることが、属人化解消の本質的なゴールです。
<ここまでのポイント>
・急ぎの見積に対応できないことが受注機会の損失につながる
・退職・高齢化で見積担当を失うリスクは今後さらに高まる
・誰が担当しても同じ精度で見積もれる体制が属人化解消のゴール
「誰でも同じ精度で見積もれる」体制をつくるには
標準化の出発点は、自社の実績データであるべきです。標準的なテンプレートは便利ですが、自社の状況に適さない場合があります。
(1)標準化の起点は「自社の実績データ」にある
現場ごとに施工条件が異なる設備工事では、業界の標準歩掛では、高精度の見積は期待できません。自社の実績から算出した自社歩掛はもっとも信頼できる基準値になります。
過去の経験から積み上がったベテランの歩掛感覚は、意外に精度は高いのですが、あくまでも「自分のスキル」が基準になっています。会社全体の実績をデータとして蓄積し、次の見積に使える状態にすることが標準化の本質です。「ベテランの勘」をデータ化することで、誰もが同じ基準で見積を出せるようになります。
(2)デジタル化が手順を可視化し、基準を組織に埋め込む
標準化を組織に定着させるには、実務の流れにデータを組み込む必要があります。システム上で参照できる見積パターンがあれば、ゼロから作成しなくてすみます。過去の見積実績や仕入データを参照できる環境があれば若手でも判断しやすくなり、見積業務を経験するハードルが下がります。もちろん、最初からすべて一人でできるはずはありませんが、まずやってみることが成長の第一歩と言えます。
設備業に特化した積算見積システムは、設備業固有の見積作成の手順を機能として搭載しています。本丸EXv3は、自社歩掛データの蓄積・経費一括登録・AI単価確認などの機能を通じて、設備業の「見積の標準化」を実現し、生産性向上に貢献します。
<ここまでのポイント>
・標準化の起点は業界テンプレートではなく「自社の実績データ」
・「ベテランの勘」をデータに変えることで基準が組織に残る
・標準化の定着にはデータが実務の流れに組み込まれた仕組みが必要
価格変動・法改正に見積の仕組みで対応する
見積の標準化と並行して課題となるのが、変化する外部環境への対応です。価格変動や法改正に対応できる仕組みが必要です。
(1)単価変動に対応できない見積の限界
見積作成時点では適正だった単価が、工事が進む間に実態と乖離していくリスクは、資材価格高騰が続く中でますます高まっています。単価を固定して運用する見積では変動を吸収できず、材料費だけでなく歩掛の設定にも影響するため、過去に利益が出ていた見積をそのまま使うと赤字になるケースが出てきます。
この問題への有効なアプローチは、建設物価データを連携して資材マスタの基準として活用することです。建設物価はそのまま自社の仕入れ価格になるわけではないため、自社の取引条件や値引き率に合わせた係数をかけて使います。市場変動を反映しながら自社の実態に近い単価を維持できるため、「今の相場で受注したら利益はどうなるか」を把握しやすくなります。また「この資材の単価はいくらにするか」という判断が経験と勘からデータに変わるため、単価設定の属人化解消にもつながります。
ただし係数は一度設定すれば終わりではなく、市場の変動に合わせた定期的な見直しが必須です。本丸EXv3はこうした建設物価連携の仕組みを提供しています。また今後予定されているAI単価確認機能では、過去の仕入実績や見積データから係数見直しの判断材料をAIが自動で集めてくれます。この見直し作業の効率化が実現する予定です(予定機能・サポート契約必須)。
関連記事:資材価格高騰の時代を乗り切る~資材調達と工事原価管理による課題解決
(2)法改正対応を、見積業務の中で完結させる
改正建設業法(2025年12月12日全面施行)により、見積条件の明示や標準労務費への対応が必要になりました。こうした法改正への対応を「別途作業として追加する」のではなく、見積業務の流れに取り込む必要があります。
改正法で求められる材料、労務、法定福利費、建退共掛金、安全衛生経費の明細帳票が見積システムに組み込まれていれば、集計作業の必要がなく、対応漏れもなくなります。本丸EXv3はこうした法令対応帳票を標準で搭載します。(8月頃予定)
関連記事:【改正建設業法】標準労務費、工期適正化対応を「競争力」に変えるロードマップ
<ここまでのポイント>
・単価変動と歩掛設定の両方に影響する価格変動リスク
・建設物価連携と係数設定で、市場変動に追随する「生きた資材マスタ」の維持が有効
・法令対応帳票が見積業務の中で完結することで対応漏れを防ぐ
積み重なるデータが「勝てる見積」をつくる
見積の標準化は、ゴールではなく出発点です。蓄積されたデータが次の見積の精度を高め、会社の競争力を継続的に底上げしていきます。
(1)自社歩掛という競争力の源泉
自社歩掛は「この工種をこの歩掛でこなした」という実績に基づくもので、このデータは一朝一夕では手に入りません。施工実績を蓄積し、予定と実績のズレを次の見積に反映するサイクルを回し続けることで、自社歩掛の精度が育っていきます。そのために、標準化された仕組みが必要になります。
標準歩掛では、自社の施工能力を適切に反映することはできず、見積の差別化ができません。自社歩掛の構築こそが、見積標準化の最終目標といってもよいでしょう。自社歩掛は、受注判断や価格交渉で会社固有の判断基準として機能します。設備業者にとって自社歩掛の基盤となる見積と工事原価管理のデータは、重要なデータ資産です。
(2)見積の標準化は、次の工程への橋渡し
標準化された見積は、工事原価管理の実行予算としてそのまま活用できます。見積段階で積み上げた数量・単価・歩掛のデータを、工事原価管理の基準とすることで、「見積と実績のズレ」を把握しやすくなり、利益を確保すると同時に、次の見積に向けた検証を行えます。
こうじやさんシリーズは、見積(本丸EXv3)と工事原価管理(二の丸EXv3)のデータ連携により、見積の標準化と工事原価管理が自然につながります。
関連記事:公共工事入札の受注確度をアップする積算戦略~建設投資73兆円でも油断できない
<ここまでのポイント>
・自社歩掛データの蓄積が価格交渉力と見積精度の源泉
・標準化された見積が実行予算として原価管理に引き継がれる
・見積と原価管理のデータ連携が「予定と実績のズレ」の追跡を可能にする
まとめ——見積が変わる。現場が変わる。
「社長でないとわからない」は、仕組みで解決できる課題です。実績データを基準にした標準化、価格変動に対応できる仕組み、法改正への対応などを、見積業務の流れに取り入れることで、誰が担当しても同じ精度の見積が出せる体制が整います。
データの蓄積と検証の積み重ねが「自社歩掛」という競争力の源泉になり、次の工程である原価管理とのデータ連携で、収益管理の精度を高めていきます。本丸EXv3はこうした見積標準化の仕組みを提供しています。詳しくは製品ページまたはデモ予約よりご確認ください。
